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「そこに私の意思はないよ……」
「そう……ね。本当にそうだわ……でも、心配なの……お節介だと今は分かっているけれど……」
肩を落とし落ち込む母は、戯言だと思いながらも聞いて頂戴と言って、言葉を続けた。
それは幼い頃に離婚し出ていった父の事。
母と父は学生時代からの付き合いで、パソコンが好きだった父は趣味からシステムエンジニアになった。
けれど、好きを仕事にしてしまい、常にパソコンと向き合った生活。息抜きが息抜きにならなかったのか、仕事のオンオフが出来なかったのか……ノイローゼのような状態になり、壊れていったと。
そうなる前に母は転職活動を進めていたけれど、父の成績は下から数えた方が早い程で、他にやりたい事もなく、特技もない。
まだ幼い私も居る状態で、色んなプレッシャーにまで苛まれた父は、離婚届を置いて消えていったと。
「そんな事より、智子を育てる事に精一杯だったんだけどね……良い成績で進学校に入れば……せめて勉強をして将来の幅が広がればと思ったのよ……」
ある意味、それが引き金となって思い出す事になったのだろう。
勉強が全く出来ない父と、苦労していた転職活動の事が。
でも……でもさ。
「好きだから、お父さんはシステムエンジニアになれたんじゃないの……? 好きだからこそ、そこまで学べたんじゃないの……?」
私の言葉に、母はハッとした顔になった後、更に涙を浮かべた。
だって、好きだから、もっとって貪欲に知りたくなる。知りたくなるから調べるし、好きだからこそ上手くなりたい。
ただ、それだけだと思う。
嫌な事だったら……そこまで学ぼうと思えない。
学校の勉強なんて教科書にある事だから、ずっと教科書を向き合って覚えるという勉強法だけれど、自分で調べて学んで勝ち取れと言われたら絶対無理だ。
「ごめん……ごめんね、智子。ごめんなさいっ」
押し寄せる後悔を吐き出すように、謝罪の言葉を繰り返す母。
そんな事があったのならば、私に伝え、逃げ道を確保するという事を教え、選択肢を与えてくれても良かったのではないかと思ってしまう。
選ぶのは私だ。
……なんて、今更だけれど。
毒親と思っていたけれど、母も母で不器用だったのかもしれない。
こうして話し合って理解しあい、解決できたから良かったし、私は母に愛されていたのだとも思えた。
例えそれが、押し付けるような愛情だったとしても、確かにあったのだ。そして……今も。
「お母さん。私ね……」
そして、私は前を向く。
未来に向かって歩いていく。
「そう……ね。本当にそうだわ……でも、心配なの……お節介だと今は分かっているけれど……」
肩を落とし落ち込む母は、戯言だと思いながらも聞いて頂戴と言って、言葉を続けた。
それは幼い頃に離婚し出ていった父の事。
母と父は学生時代からの付き合いで、パソコンが好きだった父は趣味からシステムエンジニアになった。
けれど、好きを仕事にしてしまい、常にパソコンと向き合った生活。息抜きが息抜きにならなかったのか、仕事のオンオフが出来なかったのか……ノイローゼのような状態になり、壊れていったと。
そうなる前に母は転職活動を進めていたけれど、父の成績は下から数えた方が早い程で、他にやりたい事もなく、特技もない。
まだ幼い私も居る状態で、色んなプレッシャーにまで苛まれた父は、離婚届を置いて消えていったと。
「そんな事より、智子を育てる事に精一杯だったんだけどね……良い成績で進学校に入れば……せめて勉強をして将来の幅が広がればと思ったのよ……」
ある意味、それが引き金となって思い出す事になったのだろう。
勉強が全く出来ない父と、苦労していた転職活動の事が。
でも……でもさ。
「好きだから、お父さんはシステムエンジニアになれたんじゃないの……? 好きだからこそ、そこまで学べたんじゃないの……?」
私の言葉に、母はハッとした顔になった後、更に涙を浮かべた。
だって、好きだから、もっとって貪欲に知りたくなる。知りたくなるから調べるし、好きだからこそ上手くなりたい。
ただ、それだけだと思う。
嫌な事だったら……そこまで学ぼうと思えない。
学校の勉強なんて教科書にある事だから、ずっと教科書を向き合って覚えるという勉強法だけれど、自分で調べて学んで勝ち取れと言われたら絶対無理だ。
「ごめん……ごめんね、智子。ごめんなさいっ」
押し寄せる後悔を吐き出すように、謝罪の言葉を繰り返す母。
そんな事があったのならば、私に伝え、逃げ道を確保するという事を教え、選択肢を与えてくれても良かったのではないかと思ってしまう。
選ぶのは私だ。
……なんて、今更だけれど。
毒親と思っていたけれど、母も母で不器用だったのかもしれない。
こうして話し合って理解しあい、解決できたから良かったし、私は母に愛されていたのだとも思えた。
例えそれが、押し付けるような愛情だったとしても、確かにあったのだ。そして……今も。
「お母さん。私ね……」
そして、私は前を向く。
未来に向かって歩いていく。
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