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「えっと……ここで合ってるよね……」
翌日、私は一人で繁華街にある有名な待ち合わせスポットへと来ていた。
清潔感あるようにと、朝から東さんが張り切ってコーディネートしてくれたのだけれど、それで自信が持てるわけでもなく、私はひたすら怯えていた。
……昨日、連Pさんからきた返事。
それは一度会って話をしてみたいとの事だったのだ。
何を言われるのだろう。緊張から吐き気までもが込み上げてくる。
今からでも目印となっている文庫本を投げ捨てたい衝動に駆られる。
「……ライ?」
「は……はい!」
いきなり呼ばれたハンドルネームに、私の心臓が飛び跳ねて口から飛び出してしまうかと思えた。
つい返事をしてしまった事に逃げられなくなった私は、強い覚悟を持って顔を上げる。
そこにはスラっとした体形で180cm位あるだろう男の人が立っていた。若いけれど二十歳は超えているだろう。スッとした鼻立ちの爽やか系で、長い前髪に合わせた襟足の短いツーブロックは染められていない。
シンプルな装いをしたその人が、連Pさんなのだろうか。
「人の居る所でハンドルネームは呼ばれたくないから……佐々木と」
「あ……私は片桐です……」
確かに連Pさんは顔出しをしていない。私もだけれど。
イメージと合わないとか、顔を出した事によって歌以外で評価されたくないという思いもあるけれど。何より生活に介入されたくないという人も多数いる筈だ。
あくまで、ネットの中だけの自分。
「行こうか」
そう言って先に歩いていく連P……基、佐々木さんの後を追いかけていく。
反面、今逃げてしまえばという思いまでも沸き起こってくるけれど……ここまで来たんだ。立ち向かう恐怖と歌を歌いたいという願いを天秤にかければ、迷いなく後者の方へと傾く。
すたすたと足早に歩いていく佐々木さんの後を、私は必死においかけた。
「……好きなものを頼んで。奢るから」
「はぁっ……はぁっ……」
申し訳なさから佐々木さんが言ってくれるけれど、息切れを起こしている私に返事をする余裕もない。
佐々木さんが歩幅に気が付いた……というか、私が必死で追いかけていた事に気が付いたのは喫茶店の前まで来た時だったのだ。
入った喫茶店は賑やかな所で、小さな話し声なら他の人の声でかき消されるだろう。私達が座ったのは、壁際の端っこだ。これなら誰かに話を聞かれる事もないだろう。
喉が渇いた私はメロンソーダを頼めば、佐々木さんは大人らしいホットコーヒーをブラックで頼み、注文が席に届いた時、話は始まった。
翌日、私は一人で繁華街にある有名な待ち合わせスポットへと来ていた。
清潔感あるようにと、朝から東さんが張り切ってコーディネートしてくれたのだけれど、それで自信が持てるわけでもなく、私はひたすら怯えていた。
……昨日、連Pさんからきた返事。
それは一度会って話をしてみたいとの事だったのだ。
何を言われるのだろう。緊張から吐き気までもが込み上げてくる。
今からでも目印となっている文庫本を投げ捨てたい衝動に駆られる。
「……ライ?」
「は……はい!」
いきなり呼ばれたハンドルネームに、私の心臓が飛び跳ねて口から飛び出してしまうかと思えた。
つい返事をしてしまった事に逃げられなくなった私は、強い覚悟を持って顔を上げる。
そこにはスラっとした体形で180cm位あるだろう男の人が立っていた。若いけれど二十歳は超えているだろう。スッとした鼻立ちの爽やか系で、長い前髪に合わせた襟足の短いツーブロックは染められていない。
シンプルな装いをしたその人が、連Pさんなのだろうか。
「人の居る所でハンドルネームは呼ばれたくないから……佐々木と」
「あ……私は片桐です……」
確かに連Pさんは顔出しをしていない。私もだけれど。
イメージと合わないとか、顔を出した事によって歌以外で評価されたくないという思いもあるけれど。何より生活に介入されたくないという人も多数いる筈だ。
あくまで、ネットの中だけの自分。
「行こうか」
そう言って先に歩いていく連P……基、佐々木さんの後を追いかけていく。
反面、今逃げてしまえばという思いまでも沸き起こってくるけれど……ここまで来たんだ。立ち向かう恐怖と歌を歌いたいという願いを天秤にかければ、迷いなく後者の方へと傾く。
すたすたと足早に歩いていく佐々木さんの後を、私は必死においかけた。
「……好きなものを頼んで。奢るから」
「はぁっ……はぁっ……」
申し訳なさから佐々木さんが言ってくれるけれど、息切れを起こしている私に返事をする余裕もない。
佐々木さんが歩幅に気が付いた……というか、私が必死で追いかけていた事に気が付いたのは喫茶店の前まで来た時だったのだ。
入った喫茶店は賑やかな所で、小さな話し声なら他の人の声でかき消されるだろう。私達が座ったのは、壁際の端っこだ。これなら誰かに話を聞かれる事もないだろう。
喉が渇いた私はメロンソーダを頼めば、佐々木さんは大人らしいホットコーヒーをブラックで頼み、注文が席に届いた時、話は始まった。
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