上 下
46 / 57

46

しおりを挟む
 まるで、そこに私は居ないかのようだ。
 これは勝手に話せという事なのか。それとも無視を貫くつもりか。
 でも、声は確実に届くだろうと、私は自分の気持ちを吐き出す事にした。
 黙っていれば……言わなければ、それはそれで出て行くだけで済むかもしれない。けれど……心にしこりが残る。

「……何であんな事を投稿したの?」
「……」

 返事はない。

「いきなりアンチが湧いて出たんだけど、見てみれば明里さんのファンからで……遡ったら明里さんの投稿が原因だったんだけど」
「……」

 明里さんは、そのまま夕食の準備を始め、私の声など聞こえていないようにしている。その姿に動揺等は一切見られない。
 ……会話すらするつもりはないのだろう。
 私を居ないものとして扱っているのだ。

「……」

 ただただ悲しい。
 何も言ってもらえない事が。
 何の反応ももらえない事が。
 私にそんな価値などないのだと言われているようで……。

 ――嫉妬。

 ふいに、羽柴さんの言葉が過った。
 嫉妬から……私の存在をなかった事にしたいのだろう。
 私だって……自分より優秀な人達が居なければと……自分より上の順位を取る人達が居なければと。何度願ったか分からない。
 その存在がなければと酷い思いや願いに支配されていた事か。
 それを追い越そうなんて思えるのは、まだ心に余裕がある証で……頑張って疲れ果ててきた時の心では、それを抑え込む術なんてなかった。
 かと言って、明里さんのように人を傷つけ追い落とすような真似はしなかった。してはいけない事だと思う。
 ……それをした所で、自分は成長しないし、自分の心だって制御できない幼児のようなものだと。自分自身で認識してしまうからだ。

「……皆のおかげかな」

 感情に振り回されて、こんな事を考える事すらなかった以前の私に比べたら、だいぶ自分も成長できたと思える。
 色んな人に触れて、色んな考え方を知って……色んな世界を知ったから。
 だから……。

「私が歌の提供される事が、そんなに気に入らない?」

 明里さんのお皿を持つ手がピクリと反応し、一瞬止まる。

「ポッと出の私に抜かされたのが気に入らなくて、アンチを焚きつけた?」

 確実に、これなのだ。
 明里さんの行動全ての原因。
 私に対する感情の全て。

「自分より下の人間が、そんなチャンスを掴むのが気に入らなくて、落とそうとした? でも、それに何の意味があるの? それで自分は何を得る事が出来るの?」

 言葉が止まらない。
 言いたい事を全てぶちまけるかのように、私は次々と言葉を投げかける。

「私を落としたとして、明里さんに曲が提供されるの?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

井上キャプテン

S.H.L
青春
チームみんなで坊主になる話

ちんぽは射精した

ああああ
青春
運営さん これは青春群像です 不適切ではないです ゆるして

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

坊主女子:スポーツ女子短編集[短編集]

S.H.L
青春
野球部以外の部活の女の子が坊主にする話をまとめました

処理中です...