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平日、塾がない時に流行り曲を歌ってみるけれど、いまいちピンと来ない。
それでも録音を終えれば、週末に明里さんがMIXをしてくれた。しかも羽柴さんが簡単なMVで良ければと、作ってくれたのだ。
届いたMVと歌を合わせて、ドキドキしながら上げる。
家出してから初めての週末。母の事が少し気になりつつも、それ以上に今は歌だ。
「また一緒に配信しながら様子見する?」
「良いの!?」
「お仕事! 生活費~♪」
明里さんにとっては仕事でもある配信。
それに便乗する私。
楽しいのは楽しいのだけれど……私一人では少しとは言え稼ぐのは難しい。仕事だなんて到底言えない。
――心にモヤッとしたものが過る。
嫉妬。
羨ましくて、妬ましくて……暗い気持ちが私の心を埋め尽くす。けれど、明里さんは恩人だ。
やってきた年数も違うし、むしろライバルのように……超えるべき目標だと思えば、多少の嫉妬位は自分の原動力になるだろう。
出来るだけ良いように考えて、私は明里さんとの配信を楽しむ。
名前を売る。それだけを考えて。
「おぉっ! 増えたね」
「再生数だけ見れば……」
「あ~……まぁ……」
配信でも宣伝して確認する。
羽柴さんのSNSでもしっかり宣伝してもらっている事もあってか、今回の曲はいつも以上の再生数がある。流石、人の力と人気曲といったところか。
それでも……登録者やフォローは対して増えていないのだ。
この曲を聞きにきていても、私自身には魅力がないという事だろう。それは歌唱力をもっとあげないといけないのか。
次から次へと課題が見えてきて、私は発狂して諦めたくなる気持ちを抑える。
好き、なのに辛い。
少しだけ芽生えた感情に、涙しそうにまでなる。
「智ちゃんらしく歌う方が、一部の限定的なファンをつけやすいのかな……」
明里さんも色々と考えてくれているようだ。
「確かに、こういう曲は気持ちが乗せにくいけど……」
自分の歌を再度聞く。どれだけMIXしてもらっても、それはのっぺりとした感じがして、抑揚をつけた表現力でカバーしても人形が歌っているようだ。
……人形。
私がなりたくないもの。今必死に逃げているもの。
なのに、まだ私に纏わりつくというのか。
「ははっ」
「智ちゃん?」
乾いた笑いが自暴自棄の心から零れるようで、そのまま私は自分自身を掻きむしりたい衝動に襲われた。
人前だからと、明里さんが居るからと耐えるけれど……涙の代わりとなる温かいものを流したくて、心が渇望するのを止められなくなりそうな程に。
それでも録音を終えれば、週末に明里さんがMIXをしてくれた。しかも羽柴さんが簡単なMVで良ければと、作ってくれたのだ。
届いたMVと歌を合わせて、ドキドキしながら上げる。
家出してから初めての週末。母の事が少し気になりつつも、それ以上に今は歌だ。
「また一緒に配信しながら様子見する?」
「良いの!?」
「お仕事! 生活費~♪」
明里さんにとっては仕事でもある配信。
それに便乗する私。
楽しいのは楽しいのだけれど……私一人では少しとは言え稼ぐのは難しい。仕事だなんて到底言えない。
――心にモヤッとしたものが過る。
嫉妬。
羨ましくて、妬ましくて……暗い気持ちが私の心を埋め尽くす。けれど、明里さんは恩人だ。
やってきた年数も違うし、むしろライバルのように……超えるべき目標だと思えば、多少の嫉妬位は自分の原動力になるだろう。
出来るだけ良いように考えて、私は明里さんとの配信を楽しむ。
名前を売る。それだけを考えて。
「おぉっ! 増えたね」
「再生数だけ見れば……」
「あ~……まぁ……」
配信でも宣伝して確認する。
羽柴さんのSNSでもしっかり宣伝してもらっている事もあってか、今回の曲はいつも以上の再生数がある。流石、人の力と人気曲といったところか。
それでも……登録者やフォローは対して増えていないのだ。
この曲を聞きにきていても、私自身には魅力がないという事だろう。それは歌唱力をもっとあげないといけないのか。
次から次へと課題が見えてきて、私は発狂して諦めたくなる気持ちを抑える。
好き、なのに辛い。
少しだけ芽生えた感情に、涙しそうにまでなる。
「智ちゃんらしく歌う方が、一部の限定的なファンをつけやすいのかな……」
明里さんも色々と考えてくれているようだ。
「確かに、こういう曲は気持ちが乗せにくいけど……」
自分の歌を再度聞く。どれだけMIXしてもらっても、それはのっぺりとした感じがして、抑揚をつけた表現力でカバーしても人形が歌っているようだ。
……人形。
私がなりたくないもの。今必死に逃げているもの。
なのに、まだ私に纏わりつくというのか。
「ははっ」
「智ちゃん?」
乾いた笑いが自暴自棄の心から零れるようで、そのまま私は自分自身を掻きむしりたい衝動に襲われた。
人前だからと、明里さんが居るからと耐えるけれど……涙の代わりとなる温かいものを流したくて、心が渇望するのを止められなくなりそうな程に。
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