【完結】私が奏でる不協和音

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　接する人が増えれば、色々な物事を知るチャンスも増える。
　知っている事が増えれば、選択肢も増える。
　何も知らなければ、好きな事や嫌いな事、やりたいやりたくないで物事を判別した所で、その先が分からない。というか、そもそもやりたい事や好きな事自体が、狭い範囲から選び取る事にもなりえるのだ。
　そう……本当に知る事は大切な事で……。

「なかなか……伸びない……」
「最初はスムーズにいったのにねぇ。ビギナーズラックってやつかな」

　私は再生数に伸び悩んでいた。
　明里さんは、そんなものと言うどころか、最初にあれだけ伸びたのが凄いと言ってくれるけれど……。

「名前を売るっていうのも難しい……よね」
「そりゃ競争率高いし、どれだけの人が参入してると思ってるの」

　分母が多すぎるのだと明里さんは笑っていうけれど、私は笑えない。
　現実に向き合えと言わんばかりで……勉強に戻れば歌えない。両立なんて私にはとても厳しいのだ。
　せめて赤点じゃなくて、それなりに点数が取れていれば両立をも頑張ろうと思えたのかもしれないけれど……。

「配信もしてるし、SNSも動かしてる……MVが必要ならば作ってくれる子が居るんだよね？」
「あ、うん」
「なら方向転換？　でも、ライの良さを消すのも良くないと思うんだよねぇ」

　――方向転換。

　その言葉にギクッとした。
　歌っているのは、病んだ暗い曲。自分の思いを乗せやすい歌ばかりなのだ。更に言うなら、音楽も不協和音や日本音楽的なものを選んでしまっている私が居る。
　そう、かなり厳選していると言って良いのだ。
　今更ながら、人気曲という理由で明るいテンポのいい曲なんて選べない。というか、気持ちなんて乗せられないし、歌いにくい。

「まぁ、こんなもんだって。気長に行くしかないよ。私だって、まだまだだもん」

　そうだ。
　明里さんだって、もう何年追いかけ続けているというのだろう。
　それでこそ出ている結果もあるのだから、始めたばかりの私が明里さんに追いつくなんて、まだまだ先の話だ。
　収益化だって……先の遠い話である。でも、諦めたくない。

「今人気の曲って、何だろう……」
「……一応、一緒に聞いてみる？」

　皆はどんな曲を聞いているのか。どんな曲が人気あるのか。
　最新のランキングから、色んな曲を聞いてみるけれど、アップテンポで早口だったり、ネタだったり……。
　私の心を揺さぶるような暗く病んだ曲はなくて……。
　一部の層にしか聞かれていないのかと、今更になって突きつけられたようだ。
　好きなだけでは数字に表れないのかと。