【完結】私が奏でる不協和音

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「勝手にバイトもしてるそうじゃない？　学業がおろそかになるのであれば止めなさい！」
「それは……！」

　機材が買えなくなる。
　頑張って働いて貯めて……でも、まだまだ目標金額には遠く及ばない。

「黙って勝手にさせてた結果がこれでしょう！　もうバイト先にも辞めるって連絡はいれたから！　とっとと成績を元に戻しなさい！！」
「ふざけないで！！」

　思わず大きな声を出した。
　こんな風に感情的になるのは、いつぶりだろう。でも、止まらない。
　だって……勝手だ。
　勝手すぎる。私の意思なんてどこにもない。意見を聞いてくれる事すらない。

「私の話も聞かず一方的に！　私はあんたの人形や奴隷じゃない！」
「智子！」

　バシーン！！

　母親が更に手を振り上げたかと思えば、またも躊躇いなく私の頬をぶった。

「私はあんたの為を思って言っているのに！」

　涙を流しながら叫ぶ母親に、私は軽蔑の眼差しを向ける。

「……人の為に思うなら暴力を振るって従わせても良いの？　それとDVはどう違うの？」
「なっ！」
「あんたの為を免罪符に、意思を尊重しなくて、人の思いを踏みにじって良いの？　望む事や願う事を許さず、趣味を持つ事や夢を追いかける事も諦めさせるの？」
「智子！　親に向かって何を言うの！」
「親なら子に何をしても許されるの！？」

　自分が被害者のように泣く母親に、私は憎悪を募らせる。
　……どっちが被害者だと言うのだろうか。
　私は人としての尊厳がないような……選ぶ自由や権利を全て摘み取られてきた数年を思い起こせば、母親はただ癇癪を起こしているだけの幼子にさえ見える。

　――私は私でありたいだけなのに……。

　勉強ばかりしていても、周囲と馴染めない。
　学校での当たり前は社会で通用するわけでもなく、他にも必要な事は多々あるのだ。
　勉強、勉強ばかりで、成績を気にしていたって、この先ずっと続いていく人生は暗雲しか見えない。

「なら好きにしなさい！」

　ずっとにらみ合いを続けていれば、母親がそう声をあげた。

「親の有難みも知らないで……！　住むところや食べるもの、育ててもらっている恩も忘れて！！」

　親なら子を作り産んだ時点での義務じゃないだろうか。
　……親という権利を振りかざすだけで何の意味があるのだろう。否、その権利も間違った方向なのではないかと今の私なら思える。

「……成績が良い子じゃなければ要らないんですね」

　他人行儀にそう言えば、母はハッとした顔をするが、また同じ言葉を放ったのだ。

「全てあんたの為よ」

　なんて……私の意思が全くない言葉を。