【完結】私が奏でる不協和音

28

「……それで、何があったのか話せる？」
「……実は……」

　落ち着いた頃合いを見計らって、明里さんが訊ねてきた事に、私はぽつりぽつりと話し出す。
　言葉として口に出す事で、少しは頭の中が整理できているようにさえも思える。
　愚痴を吐き出すというのは、あまり良くないとか聞くし、私もそんなにしてきたわけではない。けれど言葉にするとこれだけ纏まっていくのかと思った。
　……何も考えず吐き出してしまえば、本当にただ愚痴を吐くだけになるのだろうけれど。

「ま～……そうだろうね」
「……」

　明里さんからは予想の答えが返って来た。
　高校には行かず、一足先に社会へと出ている明里さんの目線からしてみれば、そんなの当然と言うものなのだろう。

「でも、それはどこでも同じじゃない？」
「どこでも……？」
「そう。学校でも、職場でも」

　どういう意味だと首を傾げた私に、しっかり目線を合わせて明里さんは言った。
　きっと、大事な言葉なのだと思う。けれど私には、その真意が全く分からなかった。

「学校……は、教えてもらえる……」

　自信なく呟けば、明里さんは仕方ないなと言わんばかりに、はにかんだ。
　学校は確かに教えてもらえる場所だ。失敗だって余程社会の法に触れていない限りは許される。
　それは、まだ子どもが集う場所だからという意味もあるのだろう。大人の保護の元で育っている段階だからだ。

「あのね、産まれた時から死ぬまでずっと付き纏うのは……人間関係と学ぶ事じゃない？」
「あ……」

　目から鱗、というか光が見えたようだ。けれど、それで出口まで辿りつく答えは見いだせないけれど。
　確かに、人間関係はずっと付き纏う。産まれてから家族という関係、そして保育園や幼稚園から小学校、中学校。更には高校や大学といった進学してからに留まらず、社会に出てからも。
　近所付き合いというのもあるし、恋人が出来て結婚してとなれば新しい家族といった関係も出来てくるのだ。
　触れあう人は増え、年老いても環境が変わってデイサービスや老人ホームといった施設を使えば、また変わる。

　――ゾッとした。

　人は一人で生きてはいけないというか、常に人間関係は付き纏うという現実にだ。
　孤独で居る事は不可能なのか。家で仕事をすると言っても、それには下積みも必要だし……歌だってそうだ。
　羽柴さんがMVを作ってくれるということは、羽柴さんとも付き合っていく事になる。
　勿論、明里さんもMIXをしてくれている以上、そうなるのだ。……嫌われたくはない。
　だけれど、バイト先で陰口を言われていたという現実が心に刺さる。