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 分からない。分からない!
 そんなの誰も教えてくれなかった。
 自分で気が付く方法だって学んでいない。
 知らないものを知るという工程は、こんなに心が抉られるものなのか。

「片桐さん?」
「てんちょ……」

 通りかかった店長に声をかけられるも、私は返事をするのが精いっぱいで、とりあえず必死に呼吸を整える。
 体調不良で休むなんて言ったら、何て言われるか。ここまで来て帰るなんて、どう思われるのか。
 吐く息を多く意識した深呼吸を行うが、店長は私の顔色を見て慌て始めた。

「真っ青な顔してるじゃないか! 無理して出勤するくらいなら帰りなさい!」
「……はい……」

 店長から帰って良いという許可が下り、私の心は安心に包まれる。
 自分から申し出るのは勇気がいる事だ。
 ゆっくり更衣室から遠ざかると、先ほどまで話していた人達が更衣室から出てきて、店長が話しかけた。

「あ、片桐さん体調不良で帰るから。穴埋めお願いね」
「は~い」

 私が居なくても回る職場。
 迷惑をかけた事に心苦しくも思うけれど、私が居なくても良いという現実は少し胸に刺さると考えていれば、小さい声で店長達が話す。

「まぁ、居ても居なくても同じだしね」
「もうちょっと自分で動けるようになってくれればね」

 ――ズキンッ

 一層、痛む。
 頭が、胸が。
 心が引き裂かれるようだ。
 私は呼吸がこれ以上乱れないよう、だけれど少しでもその場を立ち去るように店を出た。
 涙が溢れて止まらない。

「どうすれば……っ」

 どうすれば良かったのだろう。
 どうするのが正解だったのだろう。
 問題となる部分も分からないし、自分を成長させる答えも分からない。
 なぜ、どうしてという悩みだけが頭を駆け巡る。
 そう、考えではないのだ。考えられる要素が何もないのだから。
 ……悩み。答えが出ない事を延々とネガティブに浮かぶだけの事。
 出口の糸口が……欲しい。
 この苦しさを紛らわせたい。
 私は泣きながら、気が付けば明里さんのアパートにまで来ていた。

「智ちゃん!? どうしたの!?」

 今日はバイトがなかったのだろう。
 チャイムを押せば明里さんが出てくれた。
 連絡もなしに、いきなり押しかけた私を快く開けてくれたけれど、明里さんはそれ以上に私の泣き顔に驚いているようだ。

「とりあえず落ち着こうか……。なんか過呼吸も出ているみたいだし。……紙袋いる?」
「だいじょ……ぶ」

 出されたお茶を少しずつ飲んで、息を整える。
 私が落ち着くまで、何も言わずただそこに居て待っていてくれる明里さんの優しさは、私にとって凄く有難かった。
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