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「つ……かれたぁ~~」

 バイトを終えて帰宅すれば、お風呂に入る余裕すらなくベッドへと倒れ込んだ。
 大量にかいた汗とか、食べ物の匂いなんて気にする余裕もない。

「歌うつもりだったのになぁ……」

 歌声合成ソフトで出されている曲は沢山あって、昔にさかのぼる程、暗く残酷な曲までもがあった。
 私はその中で気に入った曲を覚えて歌うつもりだったのだけれど……。

「体力の限界……」

 一度、歌アプリの方で歌配信なんてしてみたいな、なんて思ってもいたのだけれど、バイトに慣れるまでは難しそうだ。
 私はそのまま、微睡みの中へと意識を沈みこませていった――……。




 ――キーンコーンカーンコーン

 ガラッ!!

 チャイムと同時に教室の扉を開けてなだれ込む。
 周囲の視線が一斉に私へと向けられて教室内が静まり返るけれど、そんな事を気にする余裕もない私は自分の席へとつけば呼吸を整える。
 ただでさえ運動不足な上に疲労困憊の身体で全力疾走してきたのだ。周囲を気にする余裕もなく息を整えていればホームルームを始める為に担任が教室へ入ってきた。
 ……ギリギリセーフ……。
 見事に寝坊……というか時間ギリギリに起きた私は、汗臭いままなのが嫌で素早くシャワーを浴びて学校へ向かってきたのだ。今後、そのまま眠るのは辞めようと心に誓う。

「えー! 片桐さんが珍しいねー!」

 物珍しさなのか、ホームルームが終わった途端に東さんが声をかけてきた。
 ……嫌味なのかと思い嫌な気分が広がる。

「美紀、次体育だよ」

 紺野さんが東さんに声をかけてきた。着替えに時間がかかるからか、既にクラスの皆が素早く移動し始めており、未だ教室でゆっくりしているのなんて私達くらいだろう。
 ……どうして体育なんて教科があるのだろう。最早私の体力はゼロどころかマイナスなのに。

「あ、ホントだー! 片桐さんも一緒に行こう」

 何故。
 そんな一言が口から出せるわけもなく、私はただ唖然としてしまった。
 ……引き立て役、場違い。そんな言葉がグルグルと頭を駆け巡る。
 話しかけられているのだって、現実味がなさすぎるのに。

「……バイト初日で疲れたんじゃない? 体育は見学にしたら?」
「あ!」

 まさかの羽柴さんから飛び出した言葉に、私は驚いて顔を上げ、周囲を見渡した。
 ……クラスには誰も残っておらず、ホッと一息ついたのも束の間、近くから驚きと興味による甲高い声があがった。

「え!? バイト!?」
「美紀」

 東さんが前のめりになって聞いてきたけれど、それを紺野さんが制してくれた。
 人差し指を口にあてながら。
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