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 友達が居たのは、いつだっけ。
 心のうちを話せて、趣味の話で盛り上がったのは、いつだっけ。
 ……会話をしたのは、明里さんでいつぶりだろう。

「っ」

 深く、深く刺さるようにシャーペンの先を押し当てて、私は考えた。
 それ程までに勉強しかしていないと、周りと交流を持っていないと。自覚してしまえば悔しさと悲しさに襲われる。

「……変わろう」

 大丈夫。大丈夫だから。
 バイトが始まる。そこで一から始めよう。もう一度築こう。
 ……不安は沢山残るけれど。怖さも沢山あるけれど。

 ――と、思っていたのに。

「新しく入った片桐さんね。羽柴さん教えてあげて」

 そこに居たのはカースト上位の羽柴絵里で、私は一気に血の気が引き、まるで貧血を起こしたかのように目の前が揺らいだ。

「……ぁ……」

 終わった。
 どうしよう。
 目の前が真っ暗になるとは、この事なのだろうか。逃げ出したい。
 何とか声を絞り出すけれど、それ以上言葉にならなくて、口が開くより目に涙が浮かんでくる。

「はーい。じゃあ教えますねー」

 私がこんな様子なのに、全く気が付いていないかのように羽柴さんはこっちと言って奥へと進んでいく。
 任せても大丈夫だと思った店長は、すでに自分の持ち場へと戻ってしまった。
 このまま逃げ出して、バイトを放棄する勇気もない私は羽柴さんの後についていくしかなくて……急いで追いかけた。

「冷蔵はここ、冷凍はここ。サラダは用意されているものがあって……」

 既に用意されているものを出す。グラムをはかってご飯をよそう。ドリンクサーバーを使ってドリンクをつぐ。使い終わった食器を洗う。
 淡々と仕事に必要な物を教えてくれる羽柴さんに、こちらが呆気に取られてしまう。
 まるで初対面かのような感じで、私の事に気が付いていないのか、それとも私をクラスメートだと認識していないのかと思えてしまう。
 ……後者の方が圧倒的にありえそうなのだけれど。
 私は気にするのを止め、初めてのバイトに全力で取り組む。まずは羽柴さんと一緒にだけれど。
 覚える事も多く、コツを必要とする事はなかなか難しい。ドリンクは大体の目分量だし、ごはんはグラムを測っただけでなく、見栄えもよくしなくてはいけない。
 そして……暑い。
 厨房はとてつもなく暑い。

「……水分とってね」

 ホールの人達が水分を取っている中、用意もしていないし飲んで良いのかも分からない私に、羽柴さんが水を用意してくれた。

「あ……りがとうございます……」

 ポツリと零れるお礼の言葉が羽柴さんに届いたのかは分からないけれど、私はとても嬉しかった。
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