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「明里さん!」
「あ、智ちゃん~」

 私は学校が終わってから即座に明里さんのアパートへと行った。
 正直、朝からでも会いたかったのだけれど、明里さんは朝から夕方までバイトをしていると言ったから諦めて学校へと行ったのだ。
 ……諦めて、というのもおかしいけれど。

「こ……この曲! 曲!」
「あ、やっぱこういう系統が好きだったか~」

 アハハと笑いながら、明里さんはお茶を出してくれた。

「それ、機械なんだよ? 歌詞とメロディを入力したら音声合成ソフトだか歌声合成ソフトだかが歌ってくれるの」
「機械……」
「だから早口や高音すぎる曲もあるんだけど……歌い手の個性によって違った雰囲気になるのが、また面白くて! ……私的に機械より人の声が好きってのもあるんだけどね」

 頬をかいて、はにかみながら明里さんは言うけれど、私には全てが衝撃だった。
 人が歌うだけではない曲が世に溢れているのだ。しかも、歌声合成ソフトに歌わて曲を世に広めている人をPと言うらしい。
 イラストに動画、歌までも……SNSを通じて、プロと呼ばれていない人の作品が溢れており、そこからプロになる人も居る。
 ……今、こうして勉強ばかりして、良い大学に入って大企業に就職する事が全てではないのだ。
 好きを突き詰めて……プロになる方法が、こんな身近に出来ているのだ。

「だから明里さんは……配信をしているの?」
「そうだよ! ファンを増やして、目指せコンサートツアー!」

 芸能高校に入れなかったから何だ! と、逆境を糧にしている強さ。
 夢を追いかける芯の強さ。それだけ歌が好きなんだと、全身で叫んでいるようだ。
 好き。だけど、そこまでの熱量がない私は、自分がとても恥ずかしい存在に思えてしまう。……明里さんの隣に立つ資格なんてないのではないかと。

「そういえば! ライのアカウントめっちゃフォロー増えてるよね! 一回動画投稿サイトにも上げてみない?」
「え、でもそれは……」

 踏み出す勇気も、歌で頑張るという意欲もない私が、そんな事に手を出して良いのだろうかと呟けば、明里さんは少し怒った顔をした。

「楽しければいいでしょ! 資格とか関係ないし私も楽しいし! 私がMixするよ! 練習になるし、まずはスマホで時間ある時に録音して送ってよ!」

 楽しいから、する。

「やってみないと追いかける夢かどうかも分からないし! ……それに上手くいけばお小遣い稼げるかもよ~? 目指せ自立! ってね」

 悪戯っ子のように話す明里さんの言葉に、私の沈んでいた気持ちが浮上した。
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