【完結】私が奏でる不協和音

かずきりり

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 ――ライ。

 嘘を英語でlieという。ならばライで良い。
 性別なんて関係なくて、現実ではただ勉強しか知らずに不安だけを抱える私だけれど……このアプリの中だけでは充実した世界を生きたいのだ。
 嘘ばかりの世界で良いのだ。

「なるほど」

 私が登録した名前を覗き込んで、明里さんは納得したかのように頷いた。

「よろしくねライ! 友達……そしてライバルとしても!」

 友達なんて懐かしい響き。
 そしてライバル。そんなの受験で周囲を蹴落とすかのように……模試やテストのように競う相手全てを言うものではなく、ただ純粋に切磋琢磨して楽しむかのように思える。

「……こちらこそ、明音」

 お互い、ニヤリと微笑みあう。
 表情が出る事で、自分が表に出てきたような感覚だ。今まではどこか虚ろで、ぼんやりとしていた自分だったなと感じる程に、この短時間で自分は色んな事に気が付けたように思う。
 そこから、先ほど明里さんと歌った曲をアプリで歌い、調整等のやり方を聞いてアップする。

「じゃあまたね! 今度一緒に歌ったりしよう!」
「うん! またね」

 笑顔で明里さんのアパートを後にすれば……私はまた無表情に戻る。
 さっきまで、あんなに笑っていたのが嘘のように。
 これから家に帰るのかと思えば、心は沈むし呼吸も荒くなる。帰りたくないと思った所で、私の行く場所は母の居る家しかないのだ。

「家出の方法なんて学ばないしなぁ……」

 パパ活とか。どこかにたむろっている若者とか。色んな話を聞くけれど、そんな先の分からない不安だらけの状態になるだけの度胸はない。
 生きるという先行き不明な不安要素しかない行為をするくらいなら、いっそ死んでしまえばという考えがまた脳裏に蘇ってきて、私の手はまた傷跡に向かう。
 けれど……そこには明里さんが手当してくれた跡があり、寸での所で留まった時、スマホに通知音が鳴る。

「あ……アイテムと……コメント?」

 先ほどアップした曲に誰かが反応したようだ。

『すごい! 引き込まれる!』
『ものすごく感情がのってますね』
『表現力がある~』
『うまい!』

 流れるかのようにコメントが打たれ、気が付けばアイテムが投げられている。
 そして……そこには明里さんのコメントもあった。

『コラボしようね!』

 明里さんと歌う。歌える。
 その事が心に楽しみとして植えこまれる。
 ポチポチとコメントを返しながら歩けば、絶望までの道のりに思えた歩みが少し軽くなる。
 認めてもらえてる。喜んでもらえてる。

 ――勉強以外で。

 親は勉強だけでしか見てくれていないけれど、私の価値はそれだけではないと。親に固執する必要はないと言ってもらえているようだった。
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