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私の視線に気が付いていた明里さんは、とあるスマホアプリを開いて私に見せてきた。
それはカラオケアプリのようで、色んな人が歌をあげている。
「簡単な自動ノイズ消しやイコライザーとか、調整とかなら出来るし……あれだけ上手いんだから歌ってみたら良いのに!」
目の前が開けて、新しい世界への扉が開くような感覚に襲われた。
勉強、勉強、勉強。寝ても覚めても勉強づくし。
生きているのか死んでいるのか分からなくなる程、感情すら全くない人形のような日々に現れた「楽しみ」「楽しさ」は私の感情を強く揺さぶる。
「さっき歌ってた曲もあるし! 家帰ってから歌ってみたら?」
一気に現実へと引き戻され、絶望のどん底へと叩きつけられたかのように息が詰まった。楽しみという感情が息をひそめた変わりに、悲しいという感情と……怒りのような感情が沸き起こった。
楽しみを楽しめない、勉強ばかりさせられるという現実。
「……どうかした?」
「……親が厳しくて……」
表情に出ているのか、私が何も言わずとも察して声をかけてくれる明里さんのおかげで、口火を切る事が出来た。
……言いにくい事だけれど、折角誘ってくれたから断りの説明はすべきだろう。
そんな気持ちから簡単に説明するつもりが、聞き上手な明里さんのお陰で愚痴へと発展して全てを曝け出してしまった。というか、それだけ自分に不満が溜まり溜まっていた事にも驚いた程なのだけれど、家を飛び出してきたという辺りで明里さんは厳しい表情へと切り替わった。
「それ、帰った方が良いから」
「え」
明里さんから放たれた言葉に息を飲んだ。
先ほどまではずっと肯定的だったのに、いきなりそんな現実的な事を言われ心が戸惑ってしまった。
「親のお金で生活して、学校に行かせてもらってるんでしょ? 自立していないのだから、せめて家に帰るべきだよ」
「……」
正論すぎて返す言葉が見つからない。
厳しい目をしていた明里さんだけれど、少し呆れたような表情をして更に口を開いた。
「私、19なんだけど中卒で、今まで自立してきたんだよね」
ポツリと話された身の上話。
どうやら芸能関係の高校へと進学したかったけれど親の反対にあって受験すらさせてもらえなかったらしい。せめて不合格ならば自分の中で消化できたのに、それすらさせてもらえないのに悔しくて、そのまま高校へは行かずバイトで生計を立てて家を出たと言う。
……目から鱗とはこの事だろうか。
驚き、呆気に取られてしまったけれど、そんな道もあるのだと思った。
それはカラオケアプリのようで、色んな人が歌をあげている。
「簡単な自動ノイズ消しやイコライザーとか、調整とかなら出来るし……あれだけ上手いんだから歌ってみたら良いのに!」
目の前が開けて、新しい世界への扉が開くような感覚に襲われた。
勉強、勉強、勉強。寝ても覚めても勉強づくし。
生きているのか死んでいるのか分からなくなる程、感情すら全くない人形のような日々に現れた「楽しみ」「楽しさ」は私の感情を強く揺さぶる。
「さっき歌ってた曲もあるし! 家帰ってから歌ってみたら?」
一気に現実へと引き戻され、絶望のどん底へと叩きつけられたかのように息が詰まった。楽しみという感情が息をひそめた変わりに、悲しいという感情と……怒りのような感情が沸き起こった。
楽しみを楽しめない、勉強ばかりさせられるという現実。
「……どうかした?」
「……親が厳しくて……」
表情に出ているのか、私が何も言わずとも察して声をかけてくれる明里さんのおかげで、口火を切る事が出来た。
……言いにくい事だけれど、折角誘ってくれたから断りの説明はすべきだろう。
そんな気持ちから簡単に説明するつもりが、聞き上手な明里さんのお陰で愚痴へと発展して全てを曝け出してしまった。というか、それだけ自分に不満が溜まり溜まっていた事にも驚いた程なのだけれど、家を飛び出してきたという辺りで明里さんは厳しい表情へと切り替わった。
「それ、帰った方が良いから」
「え」
明里さんから放たれた言葉に息を飲んだ。
先ほどまではずっと肯定的だったのに、いきなりそんな現実的な事を言われ心が戸惑ってしまった。
「親のお金で生活して、学校に行かせてもらってるんでしょ? 自立していないのだから、せめて家に帰るべきだよ」
「……」
正論すぎて返す言葉が見つからない。
厳しい目をしていた明里さんだけれど、少し呆れたような表情をして更に口を開いた。
「私、19なんだけど中卒で、今まで自立してきたんだよね」
ポツリと話された身の上話。
どうやら芸能関係の高校へと進学したかったけれど親の反対にあって受験すらさせてもらえなかったらしい。せめて不合格ならば自分の中で消化できたのに、それすらさせてもらえないのに悔しくて、そのまま高校へは行かずバイトで生計を立てて家を出たと言う。
……目から鱗とはこの事だろうか。
驚き、呆気に取られてしまったけれど、そんな道もあるのだと思った。
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