【完結】私が奏でる不協和音

かずきりり

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「ちょっとそこに座ってて」

 明里さんが住むのは小さな古いアパートで、通された一室はワンルームだった。
 ロフトのようなベッドの下にはパソコン等の機器が所狭しと並べられていて、興味を引かれた。

「あー、それ歌う用なんだ」
「歌う用……?」

 消毒液等を手にしながら、私の視線に気が付いた明里さんが教えてくれる。

「歌ってみたって言うのをやっていてね。配信とかで歌ったりもしてるんだ」
「歌ってみた……?」

 だからマイクもあるのか。
 大人しく手当をされながら、私は食い入るように機材を見つめてしまっていたらしく、明里さんは笑う。

「歌ってみたってのは、まぁ自らカバーして歌った歌をSNSや動画サイトにアップしたりする事かなー」
「……カラオケとは違う……の?」

 恐々と聞き返せば、一瞬明里さんはキョトンとした顔をした後、また笑い出した。

「確かに知らない人からすればそう思えるかもね! だけど、歌うだけじゃなくて見えない所の努力もあるんだよ~!」

 マイクにマイクスタンドやポップカードを付けて綺麗な歌声を取れるようにして。オーディオインターフェースを経由して高性能のパソコンに繋いで。DAWと呼ばれる録音音声編集ソフトを使って録音した後にMixと呼ばれる作業をする。

「Mix……?」

 知らない単語が沢山出てくる中、全く理解できない作業の話が出た。
 首を傾げて呟けば、明里さんは更に懇切丁寧に教えてくれる。
 曰く、音声のノイズを消したり、イコライザーの調整、更にオーディオミキサーで音のバランスまで調整を行う。そして動画と音声を合成する……。
 その説明をされている間も、知らない単語が出て来て、既に脳が飽和状態だ。
 未知の世界すぎて理解が追い付かない。
 改めて明里さんの事を凄い人だと思い、尊敬する。歳もそう変わらなさそうに見えるのに。

「まぁ全く知らない人が聞けばそうなるよね~」

 話を聞けているようで聞けていない私に対し、明里さんは不愉快になるどころか目に涙を浮かべて笑った。

「智ちゃん、歌うまかったけど、こういうのやらないの? 興味ない?」
「興味は……」

 ある。
 あるのだけれど……全く理解出来ていない自分に恥ずかしさが込み上げた。
 やりたいからやる、なんてよく簡単に言うけれど、無知すぎる場合はどう踏み出せと言うのだろうか。
 立派なマイク……あれで歌うだけで、心が浮足立つだろう。カラオケのマイクなんかとは比べ物にならない。どれだけ気持ち良いものなのだろうかと。

「ならアプリはどうだ!」
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