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――フラフラ、フラフラ。
夜の街並みを徘徊する。
視力が悪いのに眼鏡をかけていないから、周囲の景色はぼやけて見える。街の灯りさえも虚ろだ。
人の視線や表情が分からない事は助かるのだけれど、そこまで考えられる余裕もない。
「危ねぇな!」
ぶつかりそうになって怒鳴られ、心が恐怖ですくみ痛みを覚えるその瞬間、私は自身の腕をギュっと握り締めた。
「はぁ!?」
そんな言葉が聞こえたけれど、私は更に腕を握り締める。すると、どんどん服が濡れてくるのが分かった。
体内から溢れ出たばかりのそれは、温かくて……私の気持ちを落ち着かせてくれる。
まるで、人肌に包まれているような錯覚に陥るのだ。
「ちょっと……行こ。危ないよ」
赤く……血液に濡れていく服を見て、私に声をかけてきた人達は逃げるように去って行った。
「はは……」
乾いた笑いが口から洩れる。
腕が痛い。心が痛い……そして……頬も痛い。
ソッと頬に手を当てれば、先ほど漏れ出た血液が頬についたのが分かった。けれど、そんな事を気にする余裕もない。
――頑張った。頑張ったのに。
私は死に場所を求めるかのように、フラフラと彷徨い歩き始める。
片桐 智子。それが私の名前だ。
かしこい子に育つようという、親の勝手な望みを託された地味な名前を持つ私は、見事に外見までも地味だ。
伸ばしっぱなしでツヤすらない黒い髪の毛。顔立ちもパッとしない上に眼鏡までかけていれば、見事なザ・委員長といったところか。
実際、私は優秀だった。
中学での成績は苦労する事なく上位に食い込めていたし、生真面目な性格も相まって誰からも頼られていた。
そして見事に偏差値の高い進学高校に合格して入学したのだけれど……そこから一転したと言っても良い。
「遊んでる暇があるなら勉強しなさい!」
「学年一位を取りなさい!」
「難関大学に合格しなさい!」
まさかの進学校へ進んだ為か。母は成績が全てだと言うようになり、私の時間は全て勉強に費やされた。
栄養バランスの考えられた食事、しっかりと整理整頓されて掃除の行き届いた部屋、清潔な衣類。ここだけ見れば良い母親だろう。けれど、その裏では私に勉強以外の時間を使わせない為でもある。
そして有名な塾の費用、監視のような送迎……。
環境は整っている。整ってはいるけれど……中学と高校とでは私自身もまた違ったのだ。
――気を抜けば落ちる成績。
苦労せずについていけた授業は意味不明になり、予習と復習が必要になった。むしろ、それをしても足りない程だ。
夜の街並みを徘徊する。
視力が悪いのに眼鏡をかけていないから、周囲の景色はぼやけて見える。街の灯りさえも虚ろだ。
人の視線や表情が分からない事は助かるのだけれど、そこまで考えられる余裕もない。
「危ねぇな!」
ぶつかりそうになって怒鳴られ、心が恐怖ですくみ痛みを覚えるその瞬間、私は自身の腕をギュっと握り締めた。
「はぁ!?」
そんな言葉が聞こえたけれど、私は更に腕を握り締める。すると、どんどん服が濡れてくるのが分かった。
体内から溢れ出たばかりのそれは、温かくて……私の気持ちを落ち着かせてくれる。
まるで、人肌に包まれているような錯覚に陥るのだ。
「ちょっと……行こ。危ないよ」
赤く……血液に濡れていく服を見て、私に声をかけてきた人達は逃げるように去って行った。
「はは……」
乾いた笑いが口から洩れる。
腕が痛い。心が痛い……そして……頬も痛い。
ソッと頬に手を当てれば、先ほど漏れ出た血液が頬についたのが分かった。けれど、そんな事を気にする余裕もない。
――頑張った。頑張ったのに。
私は死に場所を求めるかのように、フラフラと彷徨い歩き始める。
片桐 智子。それが私の名前だ。
かしこい子に育つようという、親の勝手な望みを託された地味な名前を持つ私は、見事に外見までも地味だ。
伸ばしっぱなしでツヤすらない黒い髪の毛。顔立ちもパッとしない上に眼鏡までかけていれば、見事なザ・委員長といったところか。
実際、私は優秀だった。
中学での成績は苦労する事なく上位に食い込めていたし、生真面目な性格も相まって誰からも頼られていた。
そして見事に偏差値の高い進学高校に合格して入学したのだけれど……そこから一転したと言っても良い。
「遊んでる暇があるなら勉強しなさい!」
「学年一位を取りなさい!」
「難関大学に合格しなさい!」
まさかの進学校へ進んだ為か。母は成績が全てだと言うようになり、私の時間は全て勉強に費やされた。
栄養バランスの考えられた食事、しっかりと整理整頓されて掃除の行き届いた部屋、清潔な衣類。ここだけ見れば良い母親だろう。けれど、その裏では私に勉強以外の時間を使わせない為でもある。
そして有名な塾の費用、監視のような送迎……。
環境は整っている。整ってはいるけれど……中学と高校とでは私自身もまた違ったのだ。
――気を抜けば落ちる成績。
苦労せずについていけた授業は意味不明になり、予習と復習が必要になった。むしろ、それをしても足りない程だ。
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