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 夕食後、サロンでお茶の用意がされて皆が集まった。
 深刻な顔をしたお父様と、困った顔をしたお母様。ルイスはどこか嬉しそうなものの、覚悟を決めたような顔をしている。
 三者三様すぎて、一体どんな話があるのだろうか。私だけ知らないという事なのかと、ドキドキしながら紅茶に口をつけて、お父様が話始めるのを待つ。

「ミア」
「はい!」

 数秒の事だったのだろうけれど、心情的には何分も待たされて、このままずっと待たされるのかと思えていた中で呼ばれた名前に、私は驚き上ずった声をあげてしまった。
 お父様は、それを咎める事もなく、ただ真剣な目をしてこちらをジッと見つめた。

「……お前とルイスが誘拐され、崩壊した建物から助け出されたのは、ほぼ一日経ってからだ」
「という事は、翌日の夕方から夜にかけて辺りですか?」

 静かにお父様が頷く。
 
「……そんなっ!」

 私の声にお父様は歯を食いしばって悔しそうな顔をして俯き、お母様はハンカチで口を押えて少しだけ涙を流し、ルイスは手を握り締めた。
 なんてことだ!

「あんな埃臭い場所に、ルイスが丸一日居たなんて!」
「……ん?」
「……え?」

 私の言葉に、三人が目を見開いて呆気に取られている。
 埃なんて身体に害しかないものを、ずっと吸っていた事になるんだよ!?
 そんな事を力説して言えば、お父様の顔がみるみる赤くなっていく。

「お前は! ちゃんと現状を理解しているのか!?」

 まさかお父様に怒られると思っていなかった私は驚いて、目を見開く。
 お母様やルイスに視線を投げても、小さく頷かれただけだ。
 深く溜息を吐きながら、お父様は説明をしてくれた。

 内密に動いていたからこそ、すぐに見つけてもらえなかったそうだけれど、貴族の令嬢が誘拐されたというのは、それだけで醜聞だ。
 なのに、建物がいきなり崩壊したとして、周囲の人や街を巡回している衛兵達が様子を見たり片付けたりしようとした時に見つかったとして、一気に話は広まったと。
 人の口に戸は立てられないとは、この事だ。
 既にミア・セフィーリオ公爵令嬢は傷物扱い、というのが社交界の噂で、平民達まで知る所となってしまっている。

「何もなかったのに……」
「それを悪魔の証明と言うんだ」

 何かあった事を証明する証拠はあれど、何もなかった事を証明する手立てはないともいえる。だって何もないのだから。
 だからこそ、誘拐されたという事実だけで、傷物と称される。
 しかも、誘拐されていた期間が長ければ長い程に、そうなってしまう。
 丸一日……それは傷物とされるのは十分すぎる時間だ。
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