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 王弟殿下のイベント、きちゃったよー!
 頭を下げたまま、私は唇を噛みしめた。
 目の前でイベントが行われるのは嬉しいし、喜ばしい限りだけど! 流石に緊張する!

「顔を上げよ。今は非公式の場だ」

 表情を取り繕える自信なんてありません!
 なんて思った所で、王弟殿下に言われれば顔を上げるしかないわけで。
 必至に淑女教育で培ってきた表情筋で、少しだけ微笑んでいるような表情を作って王弟殿下の顔を見れば……。

「ででで……殿下!?」

 折角作った表情は焦りによって消え去った。
 隣に居るルイスも、ポカンとした顔が現れている。
 それもそうだろう。だって、王弟殿下は涙を流してルイスの事を見つめているのだから。
 涙は途切れる事なく、ただぽろぽろと流れ続け、その間に静寂が流れる。数分……だろうか。数時間経ったかのような感覚が襲う中、やっと王弟殿下が口を開いた。

「会いたかった……我が息子よ」
「は?」

 率直に言ったー!
 感動的かと思いきや、ルイスから素の声が放たれ、二人の間にかなりの温度差がある。
 むしろ、何言ってんだ、このオッサン。頭湧いてるのか? とか思っていてもおかしくない。
 ゲームでのルイスは、そんな感じだった気がするしね!

「リリアック・セフィーリオ……お前の母親だ……」
「!」

 昔を懐かしむように王弟殿下が放った言葉に、ルイスの肩が揺れた。
 未だにその名を知らぬ者など居ない、最強魔術師。
 私達が王弟殿下の言葉を遮らない事で、王弟殿下は自身の過去に浸るよう、ただ言葉を垂れ流していった。






「――というわけなのだ」

 ただ自分の思いを伝え、自身の望みを叶えるように、自分が父親だと打ち明ける。周囲の事やルイスの事などおかまいなしに。
 と、思えるし、ゲーム内のルイスも似たような感想を持っていた気がする。

「……そんな……」

 静かに、ルイスの表情を盗み見れば、目を見開いて驚きの表情で言葉が出ないようだ。
 イベントスチルとは少し違うけれど、しっかり目に焼き付けさせていただきます!
 自分は置物だと言わんばかりに、気配を隠すようイベントムービー真っただ中に居た上、しっかりスチルもいただきますー!
 さぁ、この後もどんどん来なさい! イベント!
 内心の興奮を表に出さないよう、真顔でただルイスを眺め続けていれば、ルイスの視線がこちらを向いた後、どこか呆れた表情へと変化した。

「……義姉上?」

 何故かルイスが私に声をかけてきたので、思わず首をかしげた。
 ここは二人で会話するシーンの筈なのだけれど。

「……何故、驚いていないのですか……?」
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