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「――あっ!」
「義姉上? どうかしましたか?」

 一瞬だけ漏れ出た、短い悲鳴のような叫びに、ヒロインを睨みつけていたルイスはすぐ心配そうに、こちらへと顔を向けた。

「イエ、ナンデモアリマセン」
「顔が真っ青ですが?」
「ツカレタダケデス」

 考える事に。
 というか、今この瞬間、私は自分の存在が黒歴史に思えた。
 未だ私を睨み続けているヒロインに対して、ですよねーと言いたくなる。

「ならばテラスで休みましょう」
「え、あ……でも……」
「俺のお願いは聞いて下さらないと?」
「聞きます! 何でも聞きます!」

 駄目だと分かっていても、推しの願いを叶えるのがファンだ! というか、もう考えたくないという、ただの現実逃避だ。
 背中に突き刺さるヒロインからの冷たい視線を感じながら、私はとっとと逃げ出した。

 ――環境が変われば、選択も変わる。

 そう、ルイスの選択肢は広がり、その種類も変わったのだ。
 たった今それに気が付いた私は、後悔に苛まれた。

「義姉上、飲み物です」
「あ、ありがとう……」

 素直に飲み物を受け取るが、心の中では謝罪の嵐だ。

 ――だって、私はルイスとヒロインの出会いイベントを潰してしまったようなものだからだ。

「ルイスだけでもパーティを楽しんできてよ」
「嫌です」

 今からでも遅くないだろうと思って提案したのだけれど、ルイスによって一刀両断されては、次の言葉など出てこない。
 ゲームであれば、ヒロインは広い学院で迷子になっていた筈だ。
 そしてルイスは大人しくパーティに出る性格でもなく……中庭で一人孤独に佇んでいた所に、ヒロインが迷い込んでくるのだ。
 それが今はどうだ!
 思いっきり私をエスコートして、パーティに参加しているではないか! せめてエスコートがなければ違ったかもしれないのに!
 あぁ……ヒロインは迷いに迷って、やっとパーティ会場へと辿りついたから、こんなに遅れてしまったのではないのだろうか。

「可哀そうな事をしたなぁ……」
「何がですか?」
「あ、いや……遅れてきた子、迷子にでもなっていたのかなって……」

 思わず口に出てしまっていたのだろう言葉をルイスが聞き取ってしまった為、何となく誤魔化す。
 けれど、ルイスの瞳は細く射貫くような鋭さを見せ、不快感だと表情が物語った。

「義姉上を睨みつける、意味不明な輩に何故同情するのです?」
「え、いやぁ……あの……ん? 睨み?」
「…………」
「…………」

 無言が襲う。
 あれ? そういえば睨まれてたっけ? 何故?
 恥ずかしくて、つい怖い顔にでもなっていたのでは?
 迷子って不安になるしなぁ……。
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