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「そんな事、大事な家族の前で公言なんて……!」
「お父様が私達を大事にしてくださっているという自覚はあるのですね!」

 子どもならではの無邪気な笑顔で答えれば、お母様は言葉に詰まり苦虫を嚙み潰したような顔をする。
 こんな矛盾が生じるという事は、つまりは感情論的な問題なのだろう。
 たかが五歳児ならばと思い、率直に出た言葉程、素直なものはない。
 大事にされていると分かっているし、公爵家当主としての立場も理解している。流石公爵夫人と言える程に、賢いのだ。
 だけれど、何も言わず、何も説明されていない子どもを素直に育てられる程、感情までは死んでいないだけ。

 ――どこの子なの。
 ――誰の子なの。

 疑問から不安に。
 理性で保つ事が出来ない程の嫉妬。

「お母様にも可愛らしいところがあるのですね」
「ミア?」

 前世の年齢より若干年下だろうお母様に対して、妹のような感情を抱きつつも、私は五歳児の無邪気な笑顔をふりまく。

「お父様に確認してみましょう!」
「ミア!?」
「お母様が不安がっていると素直に言うのです!」
「そんな事、出来るわけないでしょう!?」

 貴族として感情を出さないように。女として静かに男を支えるように。
 全く、面倒なマナーだと思う。それで家族仲がこじれて、ルイスが孤独になるなんて許せない。

「行きますよ!」

 問答無用でお母様の手を引いて、私はお父様の執務室を目指す。

「ミア! お父様は仕事中です!」
「だから何だと言うのです? 家庭崩壊の危機なのですよ?」
「わ……私はそこまででは……っ!」

 ……ルイスと仲良くするなと言っておきながら、何を今更。やっと自覚したとでも言うのか。
 まぁ感情的になっていて、周囲の人間が言葉にしてしまえば、理論的に理解したという事だろうけれど。

「お父様! 失礼致します!」
「ミア……?」
「ミア! ノックをしなさい!」

 問答無用で執務室の扉を開け放てば、驚き呆けた顔をした父は私の名を呼ぶだけで精一杯の様子だったけれど、後ろからついてきた母には叱責された。
 まぁ、確かにマナー違反だと言う事は理解している。けれど、一大事すぎて面倒なのだ。
 私にはルイス以上に優先するものなどない。
 にっこりと、無邪気に満面の笑みを浮かべる。

「お父様には愛人がいて、愛人の子を引き取り、私達の事などどうでも良いのでしょうか?」
「そんなわけないだろう!!」

 バンッ! と、机を叩きながら立ち上がり、お父様はすぐさま怒鳴りつけて反論した。
 それが本心であると分かったお母様は、ただ狼狽える。
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