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どうして!
どうして!!
どうして!!!

愚かだった。
気がつかなかったなんて言い訳でしかない。
視力も聴力もしっかり回復するまで待てば良かったと後悔してもしきれない。
時間は戻らない。
彼女の気遣いも、暖かい肌も、あんな私に一生懸命に献身的に尽くしてくれた優しい心も!
別な人と間違えるなんて!

パレードが終わり、急ぎ森へ駆け出した。
諦めきれなかった。
もう婚姻は終わり、民達へもお披露目してしまい、今更間違いでしたなんて言えない。
自分の立場をもどかしく思った。
だったら全てを捨ててでも森の中に残れば良かったと思える。本当に今更だ。

走って、走って、走って

肺が痛む。足の感覚がない。息が苦しい。
だけど、その足を止める事はない。
会って…会ってどうすると言うのだ。
そんな自問自答を繰り返すも、彼女に会いたいという気持ちだけが沸き起こる。
会いたい。ただそれだけだった。


複数の毒が組み合わされているのじゃないかと言うくらい、全ての感覚が麻痺していたが、彼女が与えてくれる薬により徐々に感覚が戻っていっていた。

「この毒にも効く薬草があって良かった…」

ポツリと呟いた言葉に、彼女の表情が一瞬曇ったような気がした。ハッキリと見えないが。

「薬はね…毒なの…。とても美しいレリディアントですら毒を持つ種類があるのよ…見た目はとても美しくて…好きなんだけど…」

いつも口数が少ない彼女が、珍しく薬草の情報とも取れるようなものを教えてくれた。
美しいレリディアント…見てみたいと思った。
だから式典にもパレードにもレリディアントの花を大量に使った。
侯爵令嬢に何色が良いか聞いた時、白と答えたのは、一般的に広まっているのが白だからかと思ったが、違う。
知られているのが白しかないのだ。

日が沈み、周囲は闇に囲われる。
それでも構わず森の中を駆ける。
方向を見失う事なく。獣に怯える事もなく。
ただただ一心不乱に駆け、やっと小屋が視界に入った。
でも…そこに灯りなんてなく…
嫌な気持ちが胸に渦巻く。

居ないのか?
もう夜なのに、まだ外にいるのか?

ノックをするも返事がない。
声をかけるも返事がない。
焦った殿下は無遠慮に扉を開いた。
月明かりが室内を照らす。
人影が見える。

—そこにあったのは—

「うわぁああああああああああ!!!!!!」

闇夜に響く叫び声。
泣き崩れる王太子殿下。



——必ず迎えに来る。名前を聞くのはその時までとっておくよ——

彼女の口からはもう二度と語られる事がない。
果たされなかった約束。
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