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トトトトッと、王太子の馬車に近寄る幼い子どもに対し、騎士が怒鳴りつけようとしたのを王太子が止め、優しく声をかける。
「危ないよ?」
「毒から薬は作られる。特別な毒は特別な花。」
そう言って少女は手に持っていた花束を王太子殿下の前に差し出す。
王太子殿下は、少女の言葉にも、持っている花にも驚いて目を見開いている。
少女が持っているのは、結婚式やこのパレードでも使用しているレースのような波打った花びらが沢山ついたレリディアントという花だ…
ただ、一般的には白が多く、少女の持っている花束は、白い花の中にたった一輪だけ赤い花があった。
「?何を言っているのかしら?あら、赤いレリディアントなんて初めて見たわ。素敵ね」
「…ラティ…?何を…?」
驚いた表情のまま、王太子殿下は妻となった侯爵令嬢の方へ振り返る。
その時、王太子殿下は何かに気がついたように、少女に目を向け、焦ったように問いかけた。
「君!その花を渡した人はどこに居るんだ!?」
「わ…わからない!頼まれただけだもんっ」
少女はそう言って、花束を落とし走って群衆の元へ戻っていった。
王太子殿下は呆然としたまま、馬車の席につき、隣に居た令嬢に一言呟いた。
「…勘違いした僕は面白かったか?」
令嬢が息を飲んだ音が聞こえた。
何とか笑顔でパレードを続けようと令嬢がするものの、王太子殿下は両手で顔を覆ったまま、群衆に笑顔を見せる事も手を振ることもしなかった。
そして、その顔が涙に濡れていた事も、群衆に見えることもなかった。
◇
第一王子が第二王子を断罪し、立太子の式典が終わると翌日には慌ててどこかへ出かけようとする。
侯爵令嬢は、その後を追った。
父である侯爵は第一王子派だった為、情報が入ってきていたのだ。
森の中にある小屋で治療していたこと。治療していたのは女だったこと。そして立太子するにあたり、その女性を妻に迎え入れるという事を陛下と約束したと言うことまで。
なにより…戻ってくるにあたり、まだ視力や聴力といったものは完全に回復していたわけでもなく、体に痺れも残っていて、その女性の明確な声や姿も曖昧だという事まで。
そこまで急ぐ程に、早く一緒になりたかったのだろう。
森に住む魔女は侯爵の耳にまで届いていた為、殿下が動く可能性がある立太子式典の翌日には薬の納品の為に町へ出てくるように手を回したのだ。
明確な小屋の位置までは分からない為、殿下の後を分からないようにつけ、おおよその位置を把握した時に先回りして殿下の前へ出た。
「君は…」
平民らしくペコリとお辞儀をする。
服もこの時のために市井で買った平民服だし、目深にフードもかぶっている。
「約束通り…名前を聞いて良いかな」
「ラティエルと申します…殿下」
嬉しそうに歩んでくる殿下に、フードを脱ぐ。
驚いた顔をした殿下は、私が誰かすぐに理解したのだろう。
「君…だったのか?確かアラナス侯爵の…」
「はい。ラティエル・アラナスと申します」
余計な事は一切言っていない。私は嘘をついていない。殿下が勝手に勘違いしているだけだ。
聞いたとおりの特徴である格好をしただけだ。ただこの場所に居ただけだ。
婚姻が終わるまで、私は口数少なく過ごした。疑われてはいけない。嘘を付く気もない。
ここまで素早く行動を起こした殿下の事だ。きっと婚姻までの時間も早いだろう。
婚姻してしまえば、こちらのものだ。勝手に勘違いした殿下が悪い。
何より…いきなり現れた女に心奪われた殿下が悪い。
私がこんなにお慕いしていたのに………
「危ないよ?」
「毒から薬は作られる。特別な毒は特別な花。」
そう言って少女は手に持っていた花束を王太子殿下の前に差し出す。
王太子殿下は、少女の言葉にも、持っている花にも驚いて目を見開いている。
少女が持っているのは、結婚式やこのパレードでも使用しているレースのような波打った花びらが沢山ついたレリディアントという花だ…
ただ、一般的には白が多く、少女の持っている花束は、白い花の中にたった一輪だけ赤い花があった。
「?何を言っているのかしら?あら、赤いレリディアントなんて初めて見たわ。素敵ね」
「…ラティ…?何を…?」
驚いた表情のまま、王太子殿下は妻となった侯爵令嬢の方へ振り返る。
その時、王太子殿下は何かに気がついたように、少女に目を向け、焦ったように問いかけた。
「君!その花を渡した人はどこに居るんだ!?」
「わ…わからない!頼まれただけだもんっ」
少女はそう言って、花束を落とし走って群衆の元へ戻っていった。
王太子殿下は呆然としたまま、馬車の席につき、隣に居た令嬢に一言呟いた。
「…勘違いした僕は面白かったか?」
令嬢が息を飲んだ音が聞こえた。
何とか笑顔でパレードを続けようと令嬢がするものの、王太子殿下は両手で顔を覆ったまま、群衆に笑顔を見せる事も手を振ることもしなかった。
そして、その顔が涙に濡れていた事も、群衆に見えることもなかった。
◇
第一王子が第二王子を断罪し、立太子の式典が終わると翌日には慌ててどこかへ出かけようとする。
侯爵令嬢は、その後を追った。
父である侯爵は第一王子派だった為、情報が入ってきていたのだ。
森の中にある小屋で治療していたこと。治療していたのは女だったこと。そして立太子するにあたり、その女性を妻に迎え入れるという事を陛下と約束したと言うことまで。
なにより…戻ってくるにあたり、まだ視力や聴力といったものは完全に回復していたわけでもなく、体に痺れも残っていて、その女性の明確な声や姿も曖昧だという事まで。
そこまで急ぐ程に、早く一緒になりたかったのだろう。
森に住む魔女は侯爵の耳にまで届いていた為、殿下が動く可能性がある立太子式典の翌日には薬の納品の為に町へ出てくるように手を回したのだ。
明確な小屋の位置までは分からない為、殿下の後を分からないようにつけ、おおよその位置を把握した時に先回りして殿下の前へ出た。
「君は…」
平民らしくペコリとお辞儀をする。
服もこの時のために市井で買った平民服だし、目深にフードもかぶっている。
「約束通り…名前を聞いて良いかな」
「ラティエルと申します…殿下」
嬉しそうに歩んでくる殿下に、フードを脱ぐ。
驚いた顔をした殿下は、私が誰かすぐに理解したのだろう。
「君…だったのか?確かアラナス侯爵の…」
「はい。ラティエル・アラナスと申します」
余計な事は一切言っていない。私は嘘をついていない。殿下が勝手に勘違いしているだけだ。
聞いたとおりの特徴である格好をしただけだ。ただこの場所に居ただけだ。
婚姻が終わるまで、私は口数少なく過ごした。疑われてはいけない。嘘を付く気もない。
ここまで素早く行動を起こした殿下の事だ。きっと婚姻までの時間も早いだろう。
婚姻してしまえば、こちらのものだ。勝手に勘違いした殿下が悪い。
何より…いきなり現れた女に心奪われた殿下が悪い。
私がこんなにお慕いしていたのに………
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