【完結】女が勇者で何が悪い!?~魔王を物理的に拘束します~

かずきりり

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32.王太子殿下

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「ありがとうございます!魔王と話してみたかったのです」

 王城の中庭にある東屋で、微笑みながらそう言うのは、短髪の青い髪と金の瞳をした、この国の王太子ハロルド・アルスベインと言うらしい。
 その正面には、がっくりと首を落としているユーリィが、椅子に縛り付けられている。勿論、横にはあたしがしっかり陣取っているし、レジェも逆らうだけ無駄だと理解したのか、側に立っているだけだ。
 一応、念の為という名目でジャンとレオンも王太子殿下の側に仕えているのもあるからか、本来なら恐れられる存在である魔王に対し、王太子殿下は一切恐怖を感じていない。……むしろ、笑いさえするものの恐れるところが何1つないと言った感じだ。
 ……椅子に縛り付けられて項垂れる魔王なんて、考えられるか!とジャンが呆れながら言っていたのを思い出す。

「どこに住まれていたのですか?」
「…………」
「魔王と呼ばれた所以は?」
「…………」
「人々に対して何を思いますか?」
「…………」

 王太子殿下が質問を投げかけても、ユーリィは返事をするどころか、微動だにすらしない。

「……」

 あまりの不敬さに、ジャンが顔をしかめるも、レオンは吹き出しそうになるのを堪えて、身体を震わせながら顔を背けた。
 全く反応のないユーリィに対し、あたしは首を傾げながらも、頭を掴んで顔を無理やり上げさせた。それに少しの抵抗も入らない。

「……気絶してる……ね」
「ぶはっ!!!!」

 膝を付いて、もう我慢の限界だと言わんばかりのレオンは放置し、ジャンの言葉を確かめる為にユーリィの顔を覗き込めば、見事に白目を剥いていた。
 うん、いくら白目を剥いていたって、いくらでも眺めていられる顔だなぁ。

「わぁ。本当にすぐ気絶するんだ」

 面白いと言った感じで、王太子殿下は前のめりになってユーリィを眺めながらも、ユーリィの前で左右に手を振ったりして確認をしている。
 うん、確かによく気絶はしてる。魔王なのに。

「ユーリィは身体が弱いのかな」
「臆病なんです」

 あたしが零した疑問に対し、レジェが即座に返答するも、その内容でレオンの笑いは息も絶え絶えになり、ジャンは深く頷いた。王太子殿下も魔王なのに?と言った後、はにかむように笑っていた。
 そう、ユーリィは魔王らしくないんだよ、本当に。
 そんな和やかな空気の中、ユーリィの身体が一瞬震え、ハッと気が付いたかと思えば、叫び出した。

「……魔人の力を感じる!?」

 逃げないと!と叫び立ち上がろうとしたユーリィは、自身が椅子に縛られている事を忘れていたのだろうか。立ち上がるどころか、勢いをつけすぎたせいか、椅子ごと倒れ込んだ。
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