【完結】女が勇者で何が悪い!?~魔王を物理的に拘束します~

かずきりり

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31.大神官の目的

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「どういう事だ!!」
「こんなはずではなかったのです!」

 薄暗い部屋の中、男は机に拳を叩きつけ、怒鳴りつけた。
 男の前には薄く透けた夜着を着て、震えながら膝をつき、頭を地面に擦り付けるように下げているロアナが居た。

「……ロアナ……勇者だけでなく聖騎士や賢者を誘惑する事もできず、魔王の血も手に入れられなかったとは……目的を忘れたわけではないだろう」
「はい。大神官様による世界の征服です」

 ロアナは顔を上げて、真剣な顔でハッキリ言い放った。
 前髪が長めのウルフカットをした金髪で、赤い鋭い目。キリっとした整った顔立ちをしている大神官に、ロアナは一瞬見惚れてしまう。ロアナより遥かに年上だというのは、大神官という位から分かるのだけれど見た目はどう見ても20代前半だ。

 ――世界征服。

 一言で言えば簡単だが、それはまるで夢物語のような話だ。
 だが、この大神官リュク・シヴィルは、この国にある教会を私物化し、神という名目で魔人を崇拝している。
 勇者の鑑定で、ある程度教会は各国に対して実権を握っていても、結局それだけで終わっている。一定の事までしか口出しは出来ないし、勇者を見つけ出す為に必要だから敬われはしても、ただそれだけだ。結局、都合の良い扱いをされているのだ。

「勇者を手懐け、賢者と聖騎士を誘惑し、魔人へと捧げる供物として魔王の血を手に入れ、魔人の力を以てして世界を手に入れる筈が……っ」

 リュクは、成し遂げられなかった事をブツブツ呟きながら苛立っている。いつまでも過去の事を責めるかのように口にしていた所で、意味がないのは理解していても、腹の虫は収まらない。
 ロアナはいつもの強気が嘘のように、申し訳なさそうな顔をして俯いている。これが惚れた弱みというものなのだろうか。

 ――先に魔人を召喚し、それから魔王を供物にすればいいのではないか。
 ――どうせ、魔王はこの地にいる。

 リュクの周囲に、リュクだけが見える小さな人の姿をして黒い羽根を生やした妖精が、リュクだけに聞こえる声で囁く。

「……そうか……そうだな……」

 ――供物は、既にある。

 魔王とは、果てしない魔力を持つ者。それは賢者の比ではない程で、既に人の域とは言えないのだ。……そう、エルフである賢者よりも果てしない魔力量。
 魔人を召喚したとして、その魔力の方へ勝手に魔人が行ってくれるかもしれない。そう思ったリュクは、急ぎ部屋を出て、ロアナは静かに後へと続く。
 教会の地下へと続く隠し扉を開き、魔人を崇める祭壇と、召喚の為に描かれた陣の真ん中で膝をつき、リュカは祈り出した。
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