10 / 14
10.ナニー
しおりを挟む
アベラルド公爵は仕事ばかりで邸に帰ってくる事はほぼなかったし、公爵子息のエクトル様は王太子殿下の側近とし、城に泊まる事も多く、帰ってきたとしても夜遅く、朝は早く出ていく為、使用人達と会話をする事もほとんどない。
急遽帰宅した二人を出迎えていると、ガラテアの声が聞こえた。
「お父様!お兄様!おかえりなさい!!」
「っ!ガラテア!」
いきなりアベラルド公に抱きついたガラテアに悲鳴にも似た声で名前を呼ぶ。
不機嫌なのを隠す事がないアベラルド公……
頭の中がパニックになる。
背中は冷や汗でびっしょり濡れているのが分かる。
「え……お父様はお父様で……」
「ガラテア!!」
慌てて呼びかける。
これ以上は……これ以上はいけない!!
使用人達は驚きの表情をしている。
周囲の音が聞こえずらい。
心臓の音だけが耳に響く。
血の気が失せ、体中が震える。
違う……違うの……
あなたを怒らせる気も、不機嫌にさせるつもりもなくて……
エクトルと共に鋭い睨みつけた視線を向けられている事に嬉しささえも感じる。
あぁ……私を見てくれている。
「旦那様!この方は奥方様ではないのですか!?」
執事が声をあげる。周囲の使用人達も頷いている。
「ただの居候だ」
使用人達の息を呑む声。
断言される言葉。
貧乏男爵家の令嬢。それが私だった。
5つ下のエルザと仲良くしていたけれど、私は羨ましくて妬ましくて仕方なかった。
私の愛するアベラルド公の婚約者で……結婚までしたのだから。
アベラルド公と同じ年で……私はずっとずっとアベラルド公だけを見てきていたのに……
結局、貧乏貴族という事で嫁ぐ先もなく、やっと嫁ぐ事が出来たのは年老いた伯爵の元。
子どもを産んだが、すぐに旦那が亡くなり未亡人となってしまった。
そして財産を渡さないと言わんばかりに、私と年の変わらない伯爵の子供たちに追い出されたが、実家は没落していて帰る場所もなかった。
幸いな事に路頭に迷っているところをアベラルド公に拾われる事になる。
それがエルザの親友だからという理由なのには嫉妬の心が湧き上がった。
私のどこが駄目だというのだろう。
ジュリーのために、なんて。あんな女の娘なんて可愛くない、むしろ憎い。
憎い憎い憎い憎い。
お前は愛されてない
私の望む嘘の世界を、ホントウにする為に、言葉を紡いでジュリーに注いだ。
壊れていくジュリーに喜びを見出し、奥方のように振舞った。
私は愛するアベラルド公の妻で、私の産んだ娘はアベラルド公の娘!!
私の嘘は徐々に本当の世界になる。
愛してるの
愛してるの
愛してるの
きっと……あの人も、私を愛してくれる筈だと信じていた……けれど
あったのは、軽蔑と拒絶。
私の心は絶望に染まった。
急遽帰宅した二人を出迎えていると、ガラテアの声が聞こえた。
「お父様!お兄様!おかえりなさい!!」
「っ!ガラテア!」
いきなりアベラルド公に抱きついたガラテアに悲鳴にも似た声で名前を呼ぶ。
不機嫌なのを隠す事がないアベラルド公……
頭の中がパニックになる。
背中は冷や汗でびっしょり濡れているのが分かる。
「え……お父様はお父様で……」
「ガラテア!!」
慌てて呼びかける。
これ以上は……これ以上はいけない!!
使用人達は驚きの表情をしている。
周囲の音が聞こえずらい。
心臓の音だけが耳に響く。
血の気が失せ、体中が震える。
違う……違うの……
あなたを怒らせる気も、不機嫌にさせるつもりもなくて……
エクトルと共に鋭い睨みつけた視線を向けられている事に嬉しささえも感じる。
あぁ……私を見てくれている。
「旦那様!この方は奥方様ではないのですか!?」
執事が声をあげる。周囲の使用人達も頷いている。
「ただの居候だ」
使用人達の息を呑む声。
断言される言葉。
貧乏男爵家の令嬢。それが私だった。
5つ下のエルザと仲良くしていたけれど、私は羨ましくて妬ましくて仕方なかった。
私の愛するアベラルド公の婚約者で……結婚までしたのだから。
アベラルド公と同じ年で……私はずっとずっとアベラルド公だけを見てきていたのに……
結局、貧乏貴族という事で嫁ぐ先もなく、やっと嫁ぐ事が出来たのは年老いた伯爵の元。
子どもを産んだが、すぐに旦那が亡くなり未亡人となってしまった。
そして財産を渡さないと言わんばかりに、私と年の変わらない伯爵の子供たちに追い出されたが、実家は没落していて帰る場所もなかった。
幸いな事に路頭に迷っているところをアベラルド公に拾われる事になる。
それがエルザの親友だからという理由なのには嫉妬の心が湧き上がった。
私のどこが駄目だというのだろう。
ジュリーのために、なんて。あんな女の娘なんて可愛くない、むしろ憎い。
憎い憎い憎い憎い。
お前は愛されてない
私の望む嘘の世界を、ホントウにする為に、言葉を紡いでジュリーに注いだ。
壊れていくジュリーに喜びを見出し、奥方のように振舞った。
私は愛するアベラルド公の妻で、私の産んだ娘はアベラルド公の娘!!
私の嘘は徐々に本当の世界になる。
愛してるの
愛してるの
愛してるの
きっと……あの人も、私を愛してくれる筈だと信じていた……けれど
あったのは、軽蔑と拒絶。
私の心は絶望に染まった。
526
お気に入りに追加
6,404
あなたにおすすめの小説
愛してほしかった
こな
恋愛
「側室でもいいか」最愛の人にそう問われ、頷くしかなかった。
心はすり減り、期待を持つことを止めた。
──なのに、今更どういうおつもりですか?
※設定ふんわり
※何でも大丈夫な方向け
※合わない方は即ブラウザバックしてください
※指示、暴言を含むコメント、読後の苦情などはお控えください
【完結】高嶺の花がいなくなった日。
紺
恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。
清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。
婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。
※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。
身勝手だったのは、誰なのでしょうか。
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢になるはずの子が、潔く(?)身を引いたらこうなりました。なんで?
聖女様が現れた。聖女の力は確かにあるのになかなか開花せず封じられたままだけど、予言を的中させみんなの心を掴んだ。ルーチェは、そんな聖女様に心惹かれる婚約者を繋ぎ止める気は起きなかった。
小説家になろう様でも投稿しています。
「最初から期待してないからいいんです」家族から見放された少女、後に家族から助けを求められるも戦勝国の王弟殿下へ嫁入りしているので拒否る。
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に仕立て上げられた少女が幸せなるお話。
主人公は聖女に嵌められた。結果、家族からも見捨てられた。独りぼっちになった彼女は、敵国の王弟に拾われて妻となった。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
彼女を悪役だと宣うのなら、彼女に何をされたか言ってみろ!
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢呼ばわりされる彼女には、溺愛してくれる従兄がいた。
ご都合主義のハッピーエンドのSS。
ざまぁは添えるだけ。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる