8 / 14
08.王妃
しおりを挟む
強くなって欲しかった。
アベラルド公爵子息が息子のアルフレッドに掴みかかっても何も言わなかった。
むしろわたくしは、わたくしの犯した間違いが頭の中を駆け巡っていた。
目の前が真っ白になって、自分の身体が揺らぐのが分かった時、誰かがわたくしの身体を支えた。
「……大丈夫か」
「……あなた……」
陛下がわたくしの身体をしっかりと抱きとめてくれていたが、その国王も唇を噛み締めて俯いている。
触れている身体から、震えているのが分かる。
怒りなのか、後悔からなのか……。
アルフレッドが出て行っても何も言わなかった。言えなかった。
その後、アベラルド公爵親子が陛下に許可を貰い、退室して行く。
今更何をした所で時間が戻る事も、起きたことが無かった事にも出来ないが、このまま捨て置く事も出来ないだろう。
罪は罪として罰を与え、裁かねばならない。
そして見せしめ、同じことを繰り返さないよう。
悲しい事が二度と起こらないよう——
「わたくしは……間違っていたのかしら」
ジュリーを医師に任せ、わたくしは寝室に横たえられた。
側には陛下が居てくれている。本日の公務は他の人に任せられるものは任せたのだろう。
「それは結果論でしかない。お前はジュリーの為を思って行動したのだから」
陛下の暖かい言葉に涙が溢れる。
ジュリーの前では泣かなかった、泣けなかった。
辛く苦しんだジュリーの前で、自分が被害者かのように涙を流す事なんて出来ないと思った。
強く……強く……
女性の頂点に立てるように
卑怯な事に屈することなく
嫌味を聞き流し
堂々と真っ直ぐ前を見て
ジュリーが駄目なんかじゃない
ジュリーが相応しくないわけではない
わたくしのように、辛く苦しい思いをして欲しくなかっただけ
「わたくしが……ちゃんと気がついていればっ……!」
涙を流す私の頭を陛下が撫でる。
見ていて助けたところで先がない事も分かっている。
自分一人で立ち向かい解決しなければならない。これは乗り越える為の試練でもある。
だけれど……毒を飲むくらいならば……!
立ち向かうヒントを、手助けを、行ったのに!
「陛下、よろしいでしょうか」
ノックの後に、医師の声が室内に響いた。
陛下の許可と共に入った医師は、真剣な表情で告げた。
「アベラルド公爵令嬢の首をはねますか?」
それは、身体が手中にある際、確実に命を落とす為に用いる手段だ。
国が滅ぶような機密事項を他に回さない為、念には念を入れた行為。
「そんな……っ!」
苦しみ生きて、毒を飲んで苦しみ、更にそこへ鞭打つ行為をするのか!
反論しようとしたわたくしを陛下が止めた。
そして陛下は——
アベラルド公爵子息が息子のアルフレッドに掴みかかっても何も言わなかった。
むしろわたくしは、わたくしの犯した間違いが頭の中を駆け巡っていた。
目の前が真っ白になって、自分の身体が揺らぐのが分かった時、誰かがわたくしの身体を支えた。
「……大丈夫か」
「……あなた……」
陛下がわたくしの身体をしっかりと抱きとめてくれていたが、その国王も唇を噛み締めて俯いている。
触れている身体から、震えているのが分かる。
怒りなのか、後悔からなのか……。
アルフレッドが出て行っても何も言わなかった。言えなかった。
その後、アベラルド公爵親子が陛下に許可を貰い、退室して行く。
今更何をした所で時間が戻る事も、起きたことが無かった事にも出来ないが、このまま捨て置く事も出来ないだろう。
罪は罪として罰を与え、裁かねばならない。
そして見せしめ、同じことを繰り返さないよう。
悲しい事が二度と起こらないよう——
「わたくしは……間違っていたのかしら」
ジュリーを医師に任せ、わたくしは寝室に横たえられた。
側には陛下が居てくれている。本日の公務は他の人に任せられるものは任せたのだろう。
「それは結果論でしかない。お前はジュリーの為を思って行動したのだから」
陛下の暖かい言葉に涙が溢れる。
ジュリーの前では泣かなかった、泣けなかった。
辛く苦しんだジュリーの前で、自分が被害者かのように涙を流す事なんて出来ないと思った。
強く……強く……
女性の頂点に立てるように
卑怯な事に屈することなく
嫌味を聞き流し
堂々と真っ直ぐ前を見て
ジュリーが駄目なんかじゃない
ジュリーが相応しくないわけではない
わたくしのように、辛く苦しい思いをして欲しくなかっただけ
「わたくしが……ちゃんと気がついていればっ……!」
涙を流す私の頭を陛下が撫でる。
見ていて助けたところで先がない事も分かっている。
自分一人で立ち向かい解決しなければならない。これは乗り越える為の試練でもある。
だけれど……毒を飲むくらいならば……!
立ち向かうヒントを、手助けを、行ったのに!
「陛下、よろしいでしょうか」
ノックの後に、医師の声が室内に響いた。
陛下の許可と共に入った医師は、真剣な表情で告げた。
「アベラルド公爵令嬢の首をはねますか?」
それは、身体が手中にある際、確実に命を落とす為に用いる手段だ。
国が滅ぶような機密事項を他に回さない為、念には念を入れた行為。
「そんな……っ!」
苦しみ生きて、毒を飲んで苦しみ、更にそこへ鞭打つ行為をするのか!
反論しようとしたわたくしを陛下が止めた。
そして陛下は——
568
お気に入りに追加
6,399
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
愛してほしかった
こな
恋愛
「側室でもいいか」最愛の人にそう問われ、頷くしかなかった。
心はすり減り、期待を持つことを止めた。
──なのに、今更どういうおつもりですか?
※設定ふんわり
※何でも大丈夫な方向け
※合わない方は即ブラウザバックしてください
※指示、暴言を含むコメント、読後の苦情などはお控えください
私、幸せじゃないから離婚しまーす。…え? 本当の娘だと思っているから我慢して? お義母さま、ボケたのですか? 私たち元から他人です!
天田れおぽん
恋愛
ある日、ふと幸せじゃないと気付いてしまったメリー・トレンドア伯爵夫人は、実家であるコンサバティ侯爵家に侍女キャメロンを連れて帰ってしまう。
焦った夫は実家に迎えに行くが、事情を知った両親に追い返されて離婚が成立してしまう。
一方、コンサバティ侯爵家を継ぐ予定であった弟夫婦は、メリーの扱いを間違えて追い出されてしまう。
コンサバティ侯爵家を継ぐことになったメリーを元夫と弟夫婦が結託して邪魔しようとするも、侍女キャメロンが立ちふさがる。
メリーを守ろうとしたキャメロンは呪いが解けてTS。
男になったキャメロンとメリーは結婚してコンサバティ侯爵家を継ぐことになる。
トレンドア伯爵家は爵位を取り上げられて破滅。
弟夫婦はコンサバティ侯爵家を追放されてしまう。
※変な話です。(笑)
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
浮気くらいで騒ぐなとおっしゃるなら、そのとおり従ってあげましょう。
Hibah
恋愛
私の夫エルキュールは、王位継承権がある王子ではないものの、その勇敢さと知性で知られた高貴な男性でした。貴族社会では珍しいことに、私たちは婚約の段階で互いに恋に落ち、幸せな結婚生活へと進みました。しかし、ある日を境に、夫は私以外の女性を部屋に連れ込むようになります。そして「男なら誰でもやっている」と、浮気を肯定し、開き直ってしまいます。私は夫のその態度に心から苦しみました。夫を愛していないわけではなく、愛し続けているからこそ、辛いのです。しかし、夫は変わってしまいました。もうどうしようもないので、私も変わることにします。
【完結】婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる