上 下
58 / 65

57.自分らしく

しおりを挟む
マユを悲しませないって言った!
マユを泣かせちゃダメって言った!
だからアイツ等に何もしなかったのに!
竜王が泣かせた!
おしおきだー!!!

精霊が竜王様におしおきをした理由をディル様が要約して教えてくれました。

「むしろ、あの涙の理由は竜王様なのかどうか…」
「物事を深く考えられるのは人間の特権だと思うよ。見たままで判別する、それが妖精だしね」
「裏で隠れて物事を進める人間とは大違いですよ」

そう言い、ラルド様はディル様を全面に押し出し背後に隠れるようにして扉を開けようとする。

「ラルド様…?」
「人間は即死する軟弱生物です」

言い切るラルド様に、仕方ないといった表情でディル様は率先して扉を開き中の様子を見る。
こちらに振り返り、小さく頷いたかと思うと扉を大きく開いた。
中には無傷のように見える挙動不審な竜王様と、俯き微動だにしないマユが佇んでいた。

「マユ…?」

恐る恐る声をかけると、機敏に動きこちらを見たマユが駆け寄り抱きついてきた。
声はあげずとも、沢山の涙を溢れさせて。
ただただ、私に強く抱きついている。

「マユ?涙の理由を教えてくれる?」

優しく問う。
きっとマユの事だから、マユなりの何かしら深い理由があるのだろう。
躊躇っているのか、泣いていて声が出ないのか、呟くような声が聞こえる。

「マユ、教えて欲しい。ちゃんとマユを教えて?」
「私…っ!……自分らしくありたくて……っ」

マユの背中を落ち着くように撫でる。

「ここに戻ってきて……あの馬鹿達と居て…思ったの………。こっちに来て、私の意思なんてなくて。人形のように、物のように……ただ居るだけで……私の感情も無視されて………」

鬼のような形相の竜王様と、無表情で剣に手をかけるラルド様が見える。
ディル様も密かに牙を剥き出しにしている…。

「今までの生活とは違って…常識も違って……前の生活を忘れられなくても、こっちの生活に当てはめて存在だけしなきゃいけなくて……。私は私で変わってないのに………私が分からなくなって」

マユが私を抱きしめる力が緩み、その顔を上げて私の顔をしっかり見る。

「あの時は生きるのに精一杯で気がつかなくて。アリシアは向こうの世界ごと私を受け入れてくれてたし、竜王様も私がやる事に心配はするけど反対はしなくて、ちゃんと見守ってくれた。だから、私の居場所はここ……ううん、私はここを居場所にしたいの。私が私として生きる場所として」

真っ直ぐに竜王様を見つめるマユ。
竜王様も、その目線に真剣に答えるように、逸らさずマユを見つめる。

「嫌なら断ってください…」

寂しそうに呟くマユだが、マユの意見を聞いて尚、私は気になる事があった為に尋ねる決意をした。

「マユ…貴方は竜王様が好きなの?貴方の国は自由恋愛だったのでしょう?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と共に幸せに暮らします。

にのまえ
恋愛
 王太子ルールリアと結婚をして7年目。彼の浮気で、この世界が好きだった、恋愛ファンタジー小説の世界だと知った。 「前世も、今世も旦那となった人に浮気されるなんて」  悲しみに暮れた私は彼に離縁すると伝え、魔法で姿を消し、私と両親しか知らない秘密の森の中の家についた。 「ここで、ひっそり暮らしましょう」  そう決めた私に。  優しいフェンリルのパパと可愛い息子ができて幸せです。  だから、探さないでくださいね。 『お読みいただきありがとうございます。』 「浮気をした旦那様と離縁を決めたら。愛するフェンリルパパと愛しい子ができて幸せです」から、タイトルを変え。  エブリスタ(深月カナメ)で直しながら、投稿中の話に変えさせていただきました。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)

京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。 生きていくために身を粉にして働く妹マリン。 家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。 ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。 姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」  司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」 妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」 ※本日を持ちまして完結とさせていただきます。  更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。  ありがとうございました。

処理中です...