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42.国と聖女-マユside-

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王城の中を回ってみても、特にこれといった収穫はなかった。
私が居た頃よりは荒れ果てている。
そんな感想しかない。
妖精によって騒音を極力小さくしてもらっているが、目の端にチョコマカ映るモノは、現状を理解しているのだろうかと思う。
相変わらず私の名前を叫んで探しているが、こんな状態ではいくら聖女という役職を持つ者が居たとしても安寧などとは程遠い。

「安寧…あくまで作物の実りなどの安定を指すのであって、政とは別物と考えるよね」
「その通りですね」

ポツリと言った言葉に対し、返事があった事に驚き、声の主を見る。
リスタ・ガールド。三馬鹿の内一人。
つい声を出した事により、存在を知られてしまったのか…
跳ね上がる心臓の音に生きているという実感を感じ、それを楽しく思う自分に少し苦笑して落ち着きを取り戻す。

「人が集まり主君をたて、国となる。統率の為の決まりごとをつくり、それが政治となる。」

独り言のように、小さな声で呟いていくリスタ。

「人による政治がどうしようもない土壌や自然に関する事は聖女の加護により守られるが、あくまで人の手による統率に関しては人の手で行うもの」

真っ直ぐマユを見つめてくる。

「聖女様、貴方は何もしなくて良いのですよ?」

皮肉げに笑って言う。
憎悪とも嫉妬とも悲しみとも何とも言えぬ色味を瞳に隠して。

「政が崩れ、崩壊する国に置いて、聖女の意味を成す事がないから?」
「国の成り立ちのように、住みやすい土地へ人は移り住む。しかし此処は今逆を辿っている」

人がいなければ、住みやすい土地作りなんて必要もない。
過疎となっている国ならば尚更の事。
土壌が良く作物が育ったとしても、自給自足だけで成り立つ問題でもないのならば、税や売買の問題も出てくるのだ。
国と聖女…向こうの世界ではゲームや漫画等の娯楽では簡単に描かれていたものでも、実際こう立ってみると違った視点も見えてくる。

リスタの考えをもう少し知りたいな…なんて思っていたら、向こうから馬鹿王子が歩いてくるのが見えた

「リスタ!マユを見なかったか?」
「隣におりますよ?殿下には見えていないのですか?」
「!」

そうやって教えられてしまっては、私の認識阻害は効力をなくしてしまう。

「マユ!ここにいたのか!心配したぞ!」

…許されるならば燃やしたい———
ふと、ディルが竜王であるレイを問答無用で燃やしている場面を思い出し、強烈に懐かしく思った。
………なんで私ここにいるんだろう。
馬鹿に抱き抱えられて応接室に連れられている状態の中。自分で決めた事とは言え、嫌いな相手にこう引っ付かれるのは苦痛でしかないと、後悔すら抱き始めていた。

人間、忘れる生き物で、心地いいところから苦痛な状態にも戻ると、苦痛の度合いが倍増するんだなとも学んだマユだった。
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