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37.マユの闇-マユside

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今となっては思う。
平和な世界だったと。

日々、経済は移り変わり、人が理由もなく人を殺し、操作を間違えば凶器となる乗り物や、自然災害。
休みがない寝る時間がないと人々は病み、全ては電波で全国に広められ、叩き叩かれる。
怖い怖いと言ったところで、自分が体験していないと現実味はなく、死ぬ事が身近にあると思っても、遠い存在にしか思えなくて。
情報が沢山あるからこそ、逆に夢見心地なところもあったのかもしれない。

そして一変した生活———
ここは死と隣り合わせだ。
食べる物だって溢れているわけでもない。
外に出れば獣が闊歩している。

人が人を殺し
凶器となる乗り物は魔獣になり
自然災害も同じようにあるのに
こちらの世界では、とてもリアルに思えるのは、きっとネットやテレビでの情報じゃなく、自分の目で見るからだろう。
情報がとても身近だからだろう。

でもそれも現実味なんてなくて。
今自分がここに居るというのが、夢なんじゃないかと。
心が受け入れていないのかもしれない、でも本当に夢なのかもしれない。
理解したくないのかもしれない—————
自分という存在すら不安定で。分からなくなって。

日々楽しもうと思い努力した。
笑っていれば何とかなると思った。
心から笑って居る時はそんな考えなんて吹き飛んで笑っていられるから。
だからお人形のように生きるのは嫌だった。
毎日、毎日、私は自我を保つのに必死だったのかもしれない。

笑顔の裏にある闇。

アリシアと居る時は心から笑えた。
不安も恐怖も吹き飛んで、不安定な私の存在を忘れ去って。
ただただ純粋にその瞬間を笑い合うだけ。
向こうの世界で友達と居た時のように————

何も考えずに笑えていたんだ。
だから、私はその笑顔を守る為に、邪魔な「もの」を排除する。

「大丈夫か?マユ」
「………」
「殿下!早く城へ戻ってマユを休ませましょう!」
「わかっている!」

私は答えない。
馴れ合うつもりもない。
こんなストーカー王子と本当はもう二度と会うつもりもなかった。
アリシアの側を離れるつもりもなかった。
ただ…ただね…
あそこに居ても私は後方支援だし、少し無謀な事をしたかったのもあるんだ。

『生きている』

その実感を得るために。
そして全てに決着をつけて、穏やかで本当に心から笑える生活を手に入れる為に。


馬の速度はどんどん上がり、普通に乗って居たらお尻が痛くなっているだろう。
私は精霊の力を借りて浮かせているけれど。
早く着けば良い。
そう思って、大地に宿る精霊に道なりを整えてもらい、森の精霊に木を整えてもらい、風の精霊に追い風にしてもらう。
少しでも時間を短くするために。
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