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33.戦争とは

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「わぁ~!アリシア、やるね~!」

両親やカイル兄と共にルフィル国の王城へ着いた途端、引きつった笑みを浮かべるセイン兄を押しのけ、マユが満面の笑みで私に言った。

「?何が?何も殺してないわよ?」
「アリシア。思考回路がおかしくなってる」

どうやら、意味が違ったようだ。
セイン兄は呆れた様子を見せながら両親を見つめるが、父も母もニコニコと微笑んでるだけだ。
言葉を考えていたのか、マユが少しの間黙っていた後、口を開いた。

「マユ、どうしてお兄さん達みたいに馬の獣人でルフィル国まで来なかったの?」
「?どうして?」
「ディル様に乗るのが当たり前になってる?男性だと覚えてる?」
「!」

言われて気がついた。
父や母、兄は馬の獣人に嬉々として乗ってきたが、私は当たり前の様にディル様に乗ってきたのだ。
ニヤニヤしているマユと竜王様。
優しく微笑んでいるディル様と父母。
何もわかってない顔をしているカイン兄。
最終的に引きつった顔をして微笑むセイン兄がこう言って締めくくった。

「アリシア…淑女である事を頭の片隅においておいてね?」
「………はい」

男に乗る。と遠まわしに言われた私は、顔を赤くして内心焦りながらも頷くしか道は残されていなかった。
そんなつもりなんてない!なんて叫んだところで、私の行動は相反するものだから。




「と、言うことは戦をいきなりふっかけてくるという事か」
「特に宣戦布告的なものもありませんでしたね」

父とラルド様が経過報告も兼ねて話をしている。
精霊の情報網的にも侵攻は決定だが、問題なのはお粗末な戦力であることだ。
明らかに気落ちするレイドワーク一族と、困惑する獣人族。

「攻め落とす大義名分となる…と言っても…」

セイン兄も頭を抱えている。
誰もが手加減出来るような器用さはないのだ。
獣人と人間の圧倒的な力の差は勿論のこと、生きるか死ぬかで魔獣を狩っていたレイドワーク一族に関してもそうだ。
そもそも手加減でもしてこちらが怪我を負ってしまては元も子もない。
小さな怪我で死ぬ事もあるのだ。

「私たちが居なくても自力で領地を守れるようにと開発した罠を人間で試してみるのはいかがでしょう」
「爆発のやつ?あれって結局、発動のタイミングが問題で魔獣には意味なかったじゃないか」
「大元さえ作って埋めておけば、後はマユ様にでも発火してもらえば良いのでは?威力に関しては実際見て居ませんし。殺傷能力もわかりません」
「地雷みたいなものですかね?罠ではなく、いっそ爆弾みたいな……あ、あとこんなのはどうです?」


母が、侵略者達を実験材料にするような発言をしていると、マユが何やら異世界知識を出しているのか紙に何やら書き込んでいく。
それを見て目を輝かせ楽しそうにする両親とカイル兄と竜王様。
ちなみにラルド様も、わざわざマトモにやり合う必要はないか、とボソリと呟いた後、マユの話を興味深そうに聞いているし、セイン兄も馬鹿相手の戦略は、どれだけ楽なんだろう?と楽観的である。

…………戦争…………?
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