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18.落ち着いた朝に何かが起こった

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1日かけてルフィル国に来たマユは、元気そうに見えても疲れていたらしく、部屋とお風呂の準備が出来たと聞くと、寝ると言って部屋へ下がっていった。

「アリシアは大丈夫?」
「私も少し部屋で休ませていただいて宜しいでしょうか」
「わかった。レイは溜まった書類の整理な」
「え!?」

ディル様の気遣いに便乗し、私も部屋で休むことにした。
退室する部屋からは竜王様の小さい悲鳴も聞こえるが、多分…いや確実に書類仕事が苦手なのだろう。
なんか想像できる。うん。
脳筋は脳筋……思わず家族の事を思い出す。
優秀な執事が居なければ、きっと書類は見ることなく燃やされていただろうし、そのため仕事も回ることはなかっただろう…。
そんな事を考えながら、ソファに深く腰掛け、背もたれにもたれてゆっくりしていると、そのまま意識が薄れていく。
思った以上に疲れていたのだろう。

◇◆◇◆◇

窓から明るい日差しと共に、鳥のさえずりが聞こえる。
うっすらと覚醒しつつある意識から目を開けようとするも、光の眩しさから少しだけ瞼を開く。
どうやら、あれからぐっすり休んだようで、今は朝のようだ。
起き上がり、テーブルの上にある水差しから水を入れて口に含む。
ここ獣人の国では侍女や執事と言ったものの仕事は多岐に渡る上に、自分の身の回りのことは自分でやる風習がある為、人間と違って朝から起床の声かけや着替えの手伝いなどしないようなのだ。
正直、座っていれば周りが勝手に仕上げてくれるという人形極まりない待遇は苦手だし、マユもこの国の待遇は最高!って両手をあげて喜びそうだな、と思う。


「アリシア!おはよう~!」
「おはよう、マユ」

朝食の席に行くと、すでにマユが座っていて満面の笑みで迎えてくれた。
竜王様とディル様はまだのようだ。
仕事をするより朝食を食べに来そうな竜王様なのだが、どうしたのだろうと少しは思うけれど、気にしないことにして食事を持ってきてもらうよう近くにいた者に頼む。

「自由…自由いい!自由だ!!!!!」

何かを噛み締めて感動しているマユ…
うん…むしろここは自由すぎる気がしないでもないが、マユが元居た世界を思えば、貴族世界の生活なんて束縛しかなかったのだろう。
そこへ加えて……………うん。なんとも言えない。
人目も気にすることなくリラックスした様子で食事をするマユを微笑ましく思っていると、ふいに外の騒がしさに気がつく。

「アリシア!ちょっと良いか!」

騒々しく扉を開けた竜王様に眉をひそめた瞬間、綺麗な回し蹴りが竜王様の顔に入る。
が、そこで少しふんばる程度で終わったのは獣人ならではの身体なのだろうか、回し蹴りをきめただろう人の舌打ちらしきものが聞こえる。

「アリシア様、申し訳ございません。少し大変なことになりまして」

舌打ちしたのを微塵も感じさせない落ち着いた雰囲気で顔を出して声をかけてきた人物に目をみはる。
金青色のさらりとした髪に、深い緑の瞳、どこか高貴さを感じさせる佇まい。

「…人は見かけによらないのね」

ぼそりとマユが呟いた言葉はきっと私にしか届いていないだろう。
高貴さを感じさせる人が綺麗な回し蹴りを入れたことですよね、わかります。
人間が相手だったら、確実にどこかへ飛んで行っていたでしょうね。
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