上 下
21 / 21

とある侍女の意見

しおりを挟む
 夜会での出来事を聞きました。
 あそこまで情報に疎いなんて、使用人ですらありえない事です。むしろ、情報は命。
 どれだけ邸の中だけに居たのでしょう。
 井の中の蛙とはこの事。しかし、井の中の蛙大海を知らず、されど空の深さを知る。
 あの人達は狭い世界の中でも、1つの事で何かを成し遂げる事もできなかったので、蛙以下でしかない。もはや人と語るべきではないでしょう。

「私がそこに居れば、こんこんと言ってやったものを……」
「マリー?何か言った?」
「いえ、怒りが……何も」
「…………」

 私の呟いた言葉がお嬢様の耳に届いたようだが、そんな私をお嬢様は相も変わらず咎めようとはしない。
 むしろ、溜息をつきながらも、どこか嬉しそうだ。

「マリーならば、口で言うより先に手が出そうよ」
「内容もない言葉を吐く口ならば必要ないでしょう。むしろ、足りない脳の方が、もっと必要ありません」

 素直に述べた私の意見に、お嬢様はクスクスと笑みをこぼした。
 こんな可愛らしく優秀なお嬢様に、どれだけの侮辱をしやがったのかと思えば、未だに怒りが収まらない。
 クレシー侯爵なんざ、馬鹿が代替わりして爵位を賜っただけで、そこに実力なんて伴っていなかった。いっそ忠犬にでも爵位を渡せば良かったのだ。そちらの方が人様に対して害がないと言うもの。

 私が夜会に同行出来れば……きっと殴り倒していただろう。論議するだけ時間の無駄だ。
 侍女は会場まで入れないという決まりが、疎ましく思える。
 しかし、お嬢様やご主人様は、それを理解できるよう説明して諭したと言うのだ。素晴らしいとしか思えない。あんな人の話を聞かない、ご都合主義な脳を持つ人外に。

「諭したというか……まぁ、事実のみを述べただけよね」

 どうやら声に出していたようだ。
 いちいち事実を述べなければならないのも面倒だと思う。何で皆が知っている常識的なものを口に出さないといけないのだ。本当にお嬢様は懐が広い。

「ま、もうどうでも良いわ。私はゆっくりと婿入りしてくれるだろう人を探すから。私は悪くないというのも夜会でアピール出来ただろうし」

 そうなのだ。こちらもお嬢様は一人娘。本来であればお嬢様が跡継ぎだ。未だに跡継ぎとなるべく養子を取っていなかった主人に感服する。

「それに……向こうも言う通りの事になっただろうし」

 少し悪い笑みをしてお嬢様は言った。
 言霊と言う言葉がある通り、ブリジットは言葉にしていた事を見事に実現させたのだ。

 ――結婚式も挙げられない。

 あれが最初で最後のウェディングドレスには違いない。
 落ちぶれただけでなく、既に爵位や領地まで返上した上、足りない分を更に稼がなくてはならないクレシー元侯爵家。今は平民として頑張っているだろう。そしてブリジットは医師に診てもらう事も出来なくなっただろう。そんな人物が、今後結婚出来るとも思えない。

 ――望んだとおりになった。
 ――感謝の気持ちすら忘れていたから。

 まさしく、自動自得なのだ。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

風見ゆうみ
恋愛
ネイロス伯爵家の次女であるわたしは、幼い頃から変わった子だと言われ続け、家族だけじゃなく、周りの貴族から馬鹿にされ続けてきた。 そんなわたしを公爵である伯父はとても可愛がってくれていた。 ある日、伯父がお医者様から余命を宣告される。 それを聞いたわたしの家族は、子供のいない伯父の財産が父に入ると考えて豪遊し始める。 わたしの婚約者も伯父の遺産を当てにして、姉に乗り換え、姉は姉で伯父が選んでくれた自分の婚約者をわたしに押し付けてきた。 伯父が亡くなったあと、遺言書が公開され、そこには「遺留分以外の財産全てをリウ・ネイロスに、家督はリウ・ネイロスの婚約者に譲る」と書かれていた。 そのことを知った家族たちはわたしのご機嫌伺いを始める。 え……、許してもらえるだなんて本気で思ってるんですか? ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

〖完結〗旦那様には本命がいるようですので、復讐してからお別れします。

藍川みいな
恋愛
憧れのセイバン・スコフィールド侯爵に嫁いだ伯爵令嬢のレイチェルは、良い妻になろうと努力していた。 だがセイバンには結婚前から付き合っていた女性がいて、レイチェルとの結婚はお金の為だった。 レイチェルには指一本触れることもなく、愛人の家に入り浸るセイバンと離縁を決意したレイチェルだったが、愛人からお金が必要だから離縁はしないでと言われる。 レイチェルは身勝手な愛人とセイバンに、反撃を開始するのだった。 設定はゆるゆるです。 本編10話で完結になります。

待つわけないでしょ。新しい婚約者と幸せになります!

風見ゆうみ
恋愛
「1番愛しているのは君だ。だから、今から何が起こっても僕を信じて、僕が迎えに行くのを待っていてくれ」彼は、辺境伯の長女である私、リアラにそうお願いしたあと、パーティー会場に戻るなり「僕、タントス・ミゲルはここにいる、リアラ・フセラブルとの婚約を破棄し、公爵令嬢であるビアンカ・エッジホールとの婚約を宣言する」と叫んだ。 婚約破棄した上に公爵令嬢と婚約? 憤慨した私が婚約破棄を受けて、新しい婚約者を探していると、婚約者を奪った公爵令嬢の元婚約者であるルーザー・クレミナルが私の元へ訪ねてくる。 アグリタ国の第5王子である彼は整った顔立ちだけれど、戦好きで女性嫌い、直属の傭兵部隊を持ち、冷酷な人間だと貴族の中では有名な人物。そんな彼が私との婚約を持ちかけてくる。話してみると、そう悪い人でもなさそうだし、白い結婚を前提に婚約する事にしたのだけど、違うところから待ったがかかり…。 ※暴力表現が多いです。喧嘩が強い令嬢です。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法も存在します。 格闘シーンがお好きでない方、浮気男に過剰に反応される方は読む事をお控え下さい。感想をいただけるのは大変嬉しいのですが、感想欄での感情的な批判、暴言などはご遠慮願います。

【完結】嗤われた王女は婚約破棄を言い渡す

干野ワニ
恋愛
「ニクラス・アールベック侯爵令息。貴方との婚約は、本日をもって破棄します」 応接室で婚約者と向かい合いながら、わたくしは、そう静かに告げました。 もう無理をしてまで、愛を囁いてくれる必要などないのです。 わたくしは、貴方の本音を知ってしまったのですから――。

目が覚めました 〜奪われた婚約者はきっぱりと捨てました〜

鬱沢色素
恋愛
侯爵令嬢のディアナは学園でのパーティーで、婚約者フリッツの浮気現場を目撃してしまう。 今まで「他の男が君に寄りつかないように」とフリッツに言われ、地味な格好をしてきた。でも、もう目が覚めた。 さようなら。かつて好きだった人。よりを戻そうと言われても今更もう遅い。 ディアナはフリッツと婚約破棄し、好き勝手に生きることにした。 するとアロイス第一王子から婚約の申し出が舞い込み……。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。 友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。 仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。 書きながらなので、亀更新です。 どうにか完結に持って行きたい。 ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。

妹しか守りたくないと言う婚約者ですが…そんなに私が嫌いなら、もう婚約破棄しましょう。

coco
恋愛
妹しか守らないと宣言した婚約者。 理由は、私が妹を虐める悪女だからだそうだ。 そんなに私が嫌いなら…もう、婚約破棄しましょう─。

処理中です...