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とある侍女の意見

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 夜会での出来事を聞きました。
 あそこまで情報に疎いなんて、使用人ですらありえない事です。むしろ、情報は命。
 どれだけ邸の中だけに居たのでしょう。
 井の中の蛙とはこの事。しかし、井の中の蛙大海を知らず、されど空の深さを知る。
 あの人達は狭い世界の中でも、1つの事で何かを成し遂げる事もできなかったので、蛙以下でしかない。もはや人と語るべきではないでしょう。

「私がそこに居れば、こんこんと言ってやったものを……」
「マリー?何か言った?」
「いえ、怒りが……何も」
「…………」

 私の呟いた言葉がお嬢様の耳に届いたようだが、そんな私をお嬢様は相も変わらず咎めようとはしない。
 むしろ、溜息をつきながらも、どこか嬉しそうだ。

「マリーならば、口で言うより先に手が出そうよ」
「内容もない言葉を吐く口ならば必要ないでしょう。むしろ、足りない脳の方が、もっと必要ありません」

 素直に述べた私の意見に、お嬢様はクスクスと笑みをこぼした。
 こんな可愛らしく優秀なお嬢様に、どれだけの侮辱をしやがったのかと思えば、未だに怒りが収まらない。
 クレシー侯爵なんざ、馬鹿が代替わりして爵位を賜っただけで、そこに実力なんて伴っていなかった。いっそ忠犬にでも爵位を渡せば良かったのだ。そちらの方が人様に対して害がないと言うもの。

 私が夜会に同行出来れば……きっと殴り倒していただろう。論議するだけ時間の無駄だ。
 侍女は会場まで入れないという決まりが、疎ましく思える。
 しかし、お嬢様やご主人様は、それを理解できるよう説明して諭したと言うのだ。素晴らしいとしか思えない。あんな人の話を聞かない、ご都合主義な脳を持つ人外に。

「諭したというか……まぁ、事実のみを述べただけよね」

 どうやら声に出していたようだ。
 いちいち事実を述べなければならないのも面倒だと思う。何で皆が知っている常識的なものを口に出さないといけないのだ。本当にお嬢様は懐が広い。

「ま、もうどうでも良いわ。私はゆっくりと婿入りしてくれるだろう人を探すから。私は悪くないというのも夜会でアピール出来ただろうし」

 そうなのだ。こちらもお嬢様は一人娘。本来であればお嬢様が跡継ぎだ。未だに跡継ぎとなるべく養子を取っていなかった主人に感服する。

「それに……向こうも言う通りの事になっただろうし」

 少し悪い笑みをしてお嬢様は言った。
 言霊と言う言葉がある通り、ブリジットは言葉にしていた事を見事に実現させたのだ。

 ――結婚式も挙げられない。

 あれが最初で最後のウェディングドレスには違いない。
 落ちぶれただけでなく、既に爵位や領地まで返上した上、足りない分を更に稼がなくてはならないクレシー元侯爵家。今は平民として頑張っているだろう。そしてブリジットは医師に診てもらう事も出来なくなっただろう。そんな人物が、今後結婚出来るとも思えない。

 ――望んだとおりになった。
 ――感謝の気持ちすら忘れていたから。

 まさしく、自動自得なのだ。
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