19 / 21
19
しおりを挟む
「ならば、変わらず寄越しなさいよ!」
「寄越せとは何事ですか。私は医師の意見を尊重致しますよ。行きたくないと言うのに、腕を見込んで派遣していたのです。でも、それも侮辱されるまでの間です」
「子爵家の分際で!」
「分際と言うならば、子爵家に頼らないで下さい。まぁ、もう新たな契約通りに事を進めさせて頂いておりますが」
体調が悪いのも忘れたのか。それとも怒りが勝ったのか。顔を真っ赤にしながらブリジット嬢が叫ぶ。
ただ今までと違うのは、私が全て言い返している所だろうか。……しかも、毒を含めて。
マリーが居れば、もっと穏やかに話せていたのだろうか。むしろマリーならば、どんな反応を見せてくれていたのだろうと思えば、ここに居ない事が少し残念な気もする。
「新たな……契約……とは」
「こちらですよ」
対象的に、クレシー侯爵は顔を真っ青にして呟くように言葉を放った瞬間、タイミング良くお父様が登場して、契約書を掲げた。
「我がヴァロア子爵家からクレシー侯爵家へと、特に利息や期限もなく資金援助していた恩として、何度も願い出られた婚約でしたが……こうも侮辱され見下されていれば、こちらとしても腹立たしいと言うもの」
「資金援助!?子爵家が侯爵家に!?」
驚き声を上げたのはブリジット嬢だ。ジャンは呆気に取られている。
けれど、侯爵家の資金繰りが厳しい事は社交界でも有名だった為、周囲の貴族は静観している。それを見て、ブリジット嬢も驚き目を見開いた。
「式の準備は全てブリジット嬢が口出し、新居の部屋もブリジット嬢が選ぶ。それに対して同調する令息。何より、こちらが抗議の声を上げても無視し続けたクレシー侯爵に、こちらも情けをかける事をしなかっただけだ」
慌ててクレシー侯爵が契約書をひったくって、その内容を確認し始める。その横で、ブリジット嬢やジャンも契約書に目を落とした。
「……なっ」
「お父様……」
「これは……」
愕然とするクレシー侯爵だが、侯爵家の事を何も知らない二人は、クレシー侯爵に困惑の目を向けるだけだ。
「これ以上ブリジット嬢を止める事なく暴走させ、アンヌの意思を無視するのであれば以下の通りに契約を遂行する……だと!?こんな横暴な事、ヴァロア子爵らしくない!今までしなかったじゃないか!」
慌てて怒鳴るクレシー侯爵に、お父様は冷たい目線を向けた。
「バージンロードを歩かせろなんて非常識的な事を言うブリジット嬢を止めなかったのはそちらですよね?招待された方々が、どう思うか考えもしなかったのですか?……我が家も醜聞に巻き込もうとされたのですか?そうなった場合でも、資金援助は難しくなっていたでしょうね」
「寄越せとは何事ですか。私は医師の意見を尊重致しますよ。行きたくないと言うのに、腕を見込んで派遣していたのです。でも、それも侮辱されるまでの間です」
「子爵家の分際で!」
「分際と言うならば、子爵家に頼らないで下さい。まぁ、もう新たな契約通りに事を進めさせて頂いておりますが」
体調が悪いのも忘れたのか。それとも怒りが勝ったのか。顔を真っ赤にしながらブリジット嬢が叫ぶ。
ただ今までと違うのは、私が全て言い返している所だろうか。……しかも、毒を含めて。
マリーが居れば、もっと穏やかに話せていたのだろうか。むしろマリーならば、どんな反応を見せてくれていたのだろうと思えば、ここに居ない事が少し残念な気もする。
「新たな……契約……とは」
「こちらですよ」
対象的に、クレシー侯爵は顔を真っ青にして呟くように言葉を放った瞬間、タイミング良くお父様が登場して、契約書を掲げた。
「我がヴァロア子爵家からクレシー侯爵家へと、特に利息や期限もなく資金援助していた恩として、何度も願い出られた婚約でしたが……こうも侮辱され見下されていれば、こちらとしても腹立たしいと言うもの」
「資金援助!?子爵家が侯爵家に!?」
驚き声を上げたのはブリジット嬢だ。ジャンは呆気に取られている。
けれど、侯爵家の資金繰りが厳しい事は社交界でも有名だった為、周囲の貴族は静観している。それを見て、ブリジット嬢も驚き目を見開いた。
「式の準備は全てブリジット嬢が口出し、新居の部屋もブリジット嬢が選ぶ。それに対して同調する令息。何より、こちらが抗議の声を上げても無視し続けたクレシー侯爵に、こちらも情けをかける事をしなかっただけだ」
慌ててクレシー侯爵が契約書をひったくって、その内容を確認し始める。その横で、ブリジット嬢やジャンも契約書に目を落とした。
「……なっ」
「お父様……」
「これは……」
愕然とするクレシー侯爵だが、侯爵家の事を何も知らない二人は、クレシー侯爵に困惑の目を向けるだけだ。
「これ以上ブリジット嬢を止める事なく暴走させ、アンヌの意思を無視するのであれば以下の通りに契約を遂行する……だと!?こんな横暴な事、ヴァロア子爵らしくない!今までしなかったじゃないか!」
慌てて怒鳴るクレシー侯爵に、お父様は冷たい目線を向けた。
「バージンロードを歩かせろなんて非常識的な事を言うブリジット嬢を止めなかったのはそちらですよね?招待された方々が、どう思うか考えもしなかったのですか?……我が家も醜聞に巻き込もうとされたのですか?そうなった場合でも、資金援助は難しくなっていたでしょうね」
245
お気に入りに追加
3,536
あなたにおすすめの小説
許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?
風見ゆうみ
恋愛
ネイロス伯爵家の次女であるわたしは、幼い頃から変わった子だと言われ続け、家族だけじゃなく、周りの貴族から馬鹿にされ続けてきた。
そんなわたしを公爵である伯父はとても可愛がってくれていた。
ある日、伯父がお医者様から余命を宣告される。
それを聞いたわたしの家族は、子供のいない伯父の財産が父に入ると考えて豪遊し始める。
わたしの婚約者も伯父の遺産を当てにして、姉に乗り換え、姉は姉で伯父が選んでくれた自分の婚約者をわたしに押し付けてきた。
伯父が亡くなったあと、遺言書が公開され、そこには「遺留分以外の財産全てをリウ・ネイロスに、家督はリウ・ネイロスの婚約者に譲る」と書かれていた。
そのことを知った家族たちはわたしのご機嫌伺いを始める。
え……、許してもらえるだなんて本気で思ってるんですか?
※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
あなたに未練などありません
風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」
初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。
わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。
数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。
そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
ここはあなたの家ではありません
風見ゆうみ
恋愛
「明日からミノスラード伯爵邸に住んでくれ」
婚約者にそう言われ、ミノスラード伯爵邸に行ってみたはいいものの、婚約者のケサス様は弟のランドリュー様に家督を譲渡し、子爵家の令嬢と駆け落ちしていた。
わたくしを家に呼んだのは、捨てられた令嬢として惨めな思いをさせるためだった。
実家から追い出されていたわたくしは、ランドリュー様の婚約者としてミノスラード伯爵邸で暮らし始める。
そんなある日、駆け落ちした令嬢と破局したケサス様から家に戻りたいと連絡があり――
そんな人を家に入れてあげる必要はないわよね?
※誤字脱字など見直しているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
【完結】都合のいい女ではありませんので
風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。
わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。
サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。
「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」
レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。
オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。
親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。
※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
〖完結〗旦那様には本命がいるようですので、復讐してからお別れします。
藍川みいな
恋愛
憧れのセイバン・スコフィールド侯爵に嫁いだ伯爵令嬢のレイチェルは、良い妻になろうと努力していた。
だがセイバンには結婚前から付き合っていた女性がいて、レイチェルとの結婚はお金の為だった。
レイチェルには指一本触れることもなく、愛人の家に入り浸るセイバンと離縁を決意したレイチェルだったが、愛人からお金が必要だから離縁はしないでと言われる。
レイチェルは身勝手な愛人とセイバンに、反撃を開始するのだった。
設定はゆるゆるです。
本編10話で完結になります。
お久しぶりですね、元婚約者様。わたしを捨てて幸せになれましたか?
柚木ゆず
恋愛
こんなことがあるなんて、予想外でした。
わたしが伯爵令嬢ミント・ロヴィックという名前と立場を失う原因となった、8年前の婚約破棄。当時わたしを裏切った人と、偶然出会いました。
元婚約者のレオナルド様。貴方様は『お前がいると不幸になる』と言い出し、理不尽な形でわたしとの関係を絶ちましたよね?
あのあと。貴方様はわたしを捨てて、幸せになれましたか?
【完結】嗤われた王女は婚約破棄を言い渡す
干野ワニ
恋愛
「ニクラス・アールベック侯爵令息。貴方との婚約は、本日をもって破棄します」
応接室で婚約者と向かい合いながら、わたくしは、そう静かに告げました。
もう無理をしてまで、愛を囁いてくれる必要などないのです。
わたくしは、貴方の本音を知ってしまったのですから――。
人の顔色ばかり気にしていた私はもういません
風見ゆうみ
恋愛
伯爵家の次女であるリネ・ティファスには眉目秀麗な婚約者がいる。
私の婚約者である侯爵令息のデイリ・シンス様は、未亡人になって実家に帰ってきた私の姉をいつだって優先する。
彼の姉でなく、私の姉なのにだ。
両親も姉を溺愛して、姉を優先させる。
そんなある日、デイリ様は彼の友人が主催する個人的なパーティーで私に婚約破棄を申し出てきた。
寄り添うデイリ様とお姉様。
幸せそうな二人を見た私は、涙をこらえて笑顔で婚約破棄を受け入れた。
その日から、学園では馬鹿にされ悪口を言われるようになる。
そんな私を助けてくれたのは、ティファス家やシンス家の商売上の得意先でもあるニーソン公爵家の嫡男、エディ様だった。
※マイナス思考のヒロインが周りの優しさに触れて少しずつ強くなっていくお話です。
※相変わらず設定ゆるゆるのご都合主義です。
※誤字脱字、気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる