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「……他の医師に診てもらえば良いではないですか」

 今までの鬱憤を晴らすつもりはないのだけれど、つい焦らすかのように答えてしまう。
 マリーが居れば何かしら言動を起こしてくれて、私自身が第三者の視点に立てるけれど、居ない今は、つい口が止まらない。
 積もり積もった怒りや不平不満が、全て言葉となって舞っていく。

「今まで色んな医師に診てもらったけれど、駄目だったんだ! やっと出会えた医師だったんだよ! アンヌ!!」

 ジャンの声に、クレシー侯爵もこちらに視線を向け、頭を下げた。

「頼む……っ! 今までの事ならば謝る! ブリジットの為に、医師を派遣してくれ!」
「お父様……っ!?」

 ブリジット嬢は何が何だか分からないと言った様子だったが、自分が医師に診てもらえないのは私のせいだと言う事が理解できたのだろう。私に対して、突き刺さるような鋭い目線を向けて来た。

「あんたのせいなの……?」
「私のせいではありませんよ。しいて言うならばクレシー侯爵のせいでしょう」
「お父様が私に対して、そんな事する筈がないわ」
「そうだ! 私がブリジットの為にならない事をするわけがない!」

 ざわつく周囲。今の状態だと、私はただの悪役令嬢にしか見えないだろう。
 これは、きちんと説明しなくてはいけないと思えば、口角が上がる。
 選ぶ場所を間違えたわね、否、誘導したとも言えるかもしれないけれど。

「失礼ですがクレシー侯爵は、我が父であるヴァロア子爵と結んだ新たな契約書を一読いたしましたか?」
「契約書……?」

 言って、クレシー侯爵はハッとした顔をする。

「まさか……そんな……ヴァロア子爵は、いつも情けを……」
「あんなに侮辱されてまで……ですか?」
「お父様?」
「義父上?」

 愕然としたクレシー侯爵を目の当たりにして、ブリジット嬢とジャンは狼狽えた。
 私がここまで言えば、周囲の貴族達の目も、また変わる。むしろ一体どんな契約を結んだのか、侮辱とは?と言った疑問の声が聞こえて来た。勿論、そこにはクレシー侯爵は契約書をまともに読まないという馬鹿にした声もあった。

「ブリジット嬢を診ていた医師は、ヴァロア子爵の領地に住む医師で、周囲の者になくてはならない者です。それを遠路はるばる、わざわざとクレシー侯爵の邸に出向いていたのですよ?己の持つ患者達を診る時間を削って」

 厭味ったらしく言ってしまう。けれど、周囲はまだこちらの味方だ。
 だってそうだろう。医師は1人でも多くの患者を助けようとしているのだ。既に居ついた土地に自分が診ている患者なんて多く居て当たり前なのだから。
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