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「……どういう事だ……? アンヌは俺を愛しているんじゃ……? だから俺の事を何でも許してくれていたんじゃ……?」
「興味ないからですね。約束の時間を過ぎてから断りの使者を入れたり等、あまりに無礼すぎるので、途中からは呆れて物を言う事すらなかっただけです。その前に、ろくに会う事すらありませんでしたが」

 ジャンはどこまで己惚れていたのだろう。
 私の言葉に、貴族の夫人令嬢達は目を見開き、令息達は見下した目をジャンに向けた。そんな視線を感じ取っただろうジャンは膝から崩れ落ち、顔を上げる事が出来ないようだ。

「お父様……!?」

 ブリジット嬢は、どういう事だと噛みつかんばかりの勢いでクレシー侯爵の方へ視線を上げるが、クレシー侯爵は視線を違う所へうつし、合わせないようにしている。

「そりゃそうよね」
「ブリジット嬢はご存じないのよ」
「世間を知らないのね」

 周囲から漏れ出る言葉に、ブリジット嬢は何が起こっているのかと見渡すが、誰も教えてくれるわけがない。

「どういう事よ……っ! こっちは侯爵家で、あっちは子爵家じゃない……っ!」

 悔しさからか、とうとう本音を漏らしたブリジット嬢だが、自分の失言に気が付いていないようだ。
 シーンと、周囲の貴族達が黙るが、その瞳はもう何も映していない程、クレシー侯爵一家を呆れた瞳で眺めているだけだ。

「時に……ブリジット嬢は医師に診てもらっているのですか?」

 パチンと扇を閉じて放った私の言葉に対し、縋るような瞳を向けたのはクレシー侯爵だ。

「義姉さんを診てくれていた医師が、もう来る事は出来ないと言ったんだ……! アンヌは何か知っているのか!?」

 ジャンも、顔を上げて私の方を見て放った。私はそれに対して、溜息を吐く事しか出来なかった。

 ――本当に、何も知らないのだと。

 クレシー侯爵のプライドで隠していた……?
 否、知ろうとすらしなかったのだろう。少し調べればわかる事だし、医師に関してはちょっとだけでも話をすれば分かる事なのだ。
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