15 / 21
15
しおりを挟む
「大変だったわね」
「あんな常識のない……初めて見たわ」
「何もかもブリジット嬢が決めたと言うのは本当なの?」
結婚誓約書に署名をする事もなければ、そのまま帰宅した私は勿論の事、初夜を迎えていない。むしろ婚姻自体が上げていない事になるし、会場に居た人達は婚約も白紙撤回、というか破棄して当然だという事は理解しているのだろう。
夜会に参加すれば、当たり前のように囲まれた。
「まぁ……」
事実なのだから否定する必要はない、けれど、あからさまに肯定するのも私が悪女のように見えるかもしれない。
困ったように微笑んで、小さな頷きだけで返す。そうすれば、話しかけてきた人だけでなく、周りに居て私の反応を見ていた人達も含め、まぁ!と声を上げた。
あの醜態は随分と大きな噂となっているようだ。
心の奥底で、盛大に喜びガッツポーズをする私だが、表面上だけは狼狽える仕草をして内心を隠す。
「侯爵家と言ってもね……」
「あれでは、落ちぶれたのも理解できますわ……」
ボソボソと話す声。更にこれも噂となって貴族達に広がっていくだろう。
その時、一際盛大なざわつきが耳に聞こえ、更には大きな足音がこちらに近づいてくるのが分かった。
「アンヌ!!」
声の主は、元婚約者ジャン・クレシー侯爵令息だ。
険しい顔つきをして、私の方へ足音大きく歩んできている。……周囲の視線など、全く目に入っていないのだろう。
「これは……クレシー侯爵令息」
「何でそんな他人行儀なんだ!」
他人のように呼び、他人のように頭を下げて挨拶すれば、それが気に入らないとばかりにジャンは叫ぶ。
「……もう婚約者ではございませんので」
頭を下げたまま、事実のみを答える。
周囲に居る貴族達も、またコソコソと話始めるのが分かった。きっと、今のジャンを、またもクレシー侯爵家の醜態として噂するだろう。
「俺は納得していないぞ! 式まで挙げておいて、どういう事だ! しかも、何度邸に行っても取り次いですらくれないどころか、門前払いじゃないか!」
周囲の貴族たちは揃って蔑みの目でジャンを見ている。しかし、それすらジャンの視界には入っていないようで、全く淀む事なく言葉を放った。
「私は式を挙げていませんので」
「何を言っているんだ!?」
心底分からないと言った様子のジャン。頭を上げて、扇で口元を隠しながら、小さく溜息を吐いた。
「あれは私の式ではありませんので」
「俺とアンヌの式じゃないか!」
「隣に私は居ましたか?」
「隣には……っ!」
義姉が居た。という言葉を飲み込み、ジャンは目を見開く。
やっとここで、私に一切の笑顔がない事に気が付いたのだろう。ジャンは周囲を見渡し、私と同じように蔑んだ目をした貴族達に、やっと気が付いたようだ。
「あんな常識のない……初めて見たわ」
「何もかもブリジット嬢が決めたと言うのは本当なの?」
結婚誓約書に署名をする事もなければ、そのまま帰宅した私は勿論の事、初夜を迎えていない。むしろ婚姻自体が上げていない事になるし、会場に居た人達は婚約も白紙撤回、というか破棄して当然だという事は理解しているのだろう。
夜会に参加すれば、当たり前のように囲まれた。
「まぁ……」
事実なのだから否定する必要はない、けれど、あからさまに肯定するのも私が悪女のように見えるかもしれない。
困ったように微笑んで、小さな頷きだけで返す。そうすれば、話しかけてきた人だけでなく、周りに居て私の反応を見ていた人達も含め、まぁ!と声を上げた。
あの醜態は随分と大きな噂となっているようだ。
心の奥底で、盛大に喜びガッツポーズをする私だが、表面上だけは狼狽える仕草をして内心を隠す。
「侯爵家と言ってもね……」
「あれでは、落ちぶれたのも理解できますわ……」
ボソボソと話す声。更にこれも噂となって貴族達に広がっていくだろう。
その時、一際盛大なざわつきが耳に聞こえ、更には大きな足音がこちらに近づいてくるのが分かった。
「アンヌ!!」
声の主は、元婚約者ジャン・クレシー侯爵令息だ。
険しい顔つきをして、私の方へ足音大きく歩んできている。……周囲の視線など、全く目に入っていないのだろう。
「これは……クレシー侯爵令息」
「何でそんな他人行儀なんだ!」
他人のように呼び、他人のように頭を下げて挨拶すれば、それが気に入らないとばかりにジャンは叫ぶ。
「……もう婚約者ではございませんので」
頭を下げたまま、事実のみを答える。
周囲に居る貴族達も、またコソコソと話始めるのが分かった。きっと、今のジャンを、またもクレシー侯爵家の醜態として噂するだろう。
「俺は納得していないぞ! 式まで挙げておいて、どういう事だ! しかも、何度邸に行っても取り次いですらくれないどころか、門前払いじゃないか!」
周囲の貴族たちは揃って蔑みの目でジャンを見ている。しかし、それすらジャンの視界には入っていないようで、全く淀む事なく言葉を放った。
「私は式を挙げていませんので」
「何を言っているんだ!?」
心底分からないと言った様子のジャン。頭を上げて、扇で口元を隠しながら、小さく溜息を吐いた。
「あれは私の式ではありませんので」
「俺とアンヌの式じゃないか!」
「隣に私は居ましたか?」
「隣には……っ!」
義姉が居た。という言葉を飲み込み、ジャンは目を見開く。
やっとここで、私に一切の笑顔がない事に気が付いたのだろう。ジャンは周囲を見渡し、私と同じように蔑んだ目をした貴族達に、やっと気が付いたようだ。
220
お気に入りに追加
3,542
あなたにおすすめの小説
許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?
風見ゆうみ
恋愛
ネイロス伯爵家の次女であるわたしは、幼い頃から変わった子だと言われ続け、家族だけじゃなく、周りの貴族から馬鹿にされ続けてきた。
そんなわたしを公爵である伯父はとても可愛がってくれていた。
ある日、伯父がお医者様から余命を宣告される。
それを聞いたわたしの家族は、子供のいない伯父の財産が父に入ると考えて豪遊し始める。
わたしの婚約者も伯父の遺産を当てにして、姉に乗り換え、姉は姉で伯父が選んでくれた自分の婚約者をわたしに押し付けてきた。
伯父が亡くなったあと、遺言書が公開され、そこには「遺留分以外の財産全てをリウ・ネイロスに、家督はリウ・ネイロスの婚約者に譲る」と書かれていた。
そのことを知った家族たちはわたしのご機嫌伺いを始める。
え……、許してもらえるだなんて本気で思ってるんですか?
※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
〖完結〗旦那様には本命がいるようですので、復讐してからお別れします。
藍川みいな
恋愛
憧れのセイバン・スコフィールド侯爵に嫁いだ伯爵令嬢のレイチェルは、良い妻になろうと努力していた。
だがセイバンには結婚前から付き合っていた女性がいて、レイチェルとの結婚はお金の為だった。
レイチェルには指一本触れることもなく、愛人の家に入り浸るセイバンと離縁を決意したレイチェルだったが、愛人からお金が必要だから離縁はしないでと言われる。
レイチェルは身勝手な愛人とセイバンに、反撃を開始するのだった。
設定はゆるゆるです。
本編10話で完結になります。
【完結】嗤われた王女は婚約破棄を言い渡す
干野ワニ
恋愛
「ニクラス・アールベック侯爵令息。貴方との婚約は、本日をもって破棄します」
応接室で婚約者と向かい合いながら、わたくしは、そう静かに告げました。
もう無理をしてまで、愛を囁いてくれる必要などないのです。
わたくしは、貴方の本音を知ってしまったのですから――。
俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?
柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。
婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。
そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――
ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?
婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。
義妹と一緒になり邪魔者扱いしてきた婚約者は…私の家出により、罰を受ける事になりました。
coco
恋愛
可愛い義妹と一緒になり、私を邪魔者扱いする婚約者。
耐えきれなくなった私は、ついに家出を決意するが…?
【完結】「妹が欲しがるのだから与えるべきだ」と貴方は言うけれど……
小笠原 ゆか
恋愛
私の婚約者、アシュフォード侯爵家のエヴァンジェリンは、後妻の産んだ義妹ダルシニアを虐げている――そんな噂があった。次期王子妃として、ひいては次期王妃となるに相応しい振る舞いをするよう毎日叱責するが、エヴァンジェリンは聞き入れない。最後の手段として『婚約解消』を仄めかしても動じることなく彼女は私の下を去っていった。
この作品は『小説家になろう』でも公開中です。
婚約者の姉から誰も守ってくれないなら、自分の身は自分で守るまでですが……
もるだ
恋愛
婚約者の姉から酷い暴言暴力を受けたのに「大目に見てやってよ」と笑って流されたので、自分の身は自分で守ることにします。公爵家の名に傷がついても知りません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる