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「ブリジット・クレシー公爵令嬢が、煌びやかな真っ白いドレスで来ております」
「え?」
「……は?」

 予想の斜め上な内容だ。
 バージンロードを諦めてはいないと思っていたのだけれど、まさか白いドレスでやってくるとは……。
 呆れ果てた私とお父様をよそに、外の声は更に騒々しくなる。きっと、招待した他の貴族達が騒いでいるのだろう。
 見事なまでにクレシー侯爵家は、式が始まる前に醜聞を自分達で知らしめた事になる。もはや、ここまで来ると、呆れるというか悪い意味で感嘆する。

 ――さて、どうするか。

 「あの……お時間になりました……」

 考える間もなく、神官見習いだろう子が呼びに来た。
 もう、式が始まる時間か。
 すぐに教会へと移動し、バージンロードを歩く控えに入らないといけない。扉の向こうにあった騒めきが、今は静かになりつつあるのは、皆が教会の方へ移動しているからだろう。
 ……この醜聞塗れた状態で、式?
 
「お嬢様、顔が疲れております」

 何とも言えない表情で、マリーが顔に粉をはたいてくれる。
 式に行かせたくない、けれど、折角ウェディングドレスを着ているのであれば、美しく居て欲しいという事なのだろうか。

「……もっとお嬢様に似合う、あんな奴以上に煌びやかなドレスがあっただろうに」

 ボソリと、憎悪のこもった声でマリーは呟いた。
 あぁ、そうか。
 このドレスを選んだのは、ブリジット嬢だ。自分のドレスより煌びやかなものは却下したかったのかもしれない。この予測は現状からの結果論でしかないかもしれないけれど。例え予測が違ったとしても、それが事実として残るし、誰もがそう思えるだろう。

「急ぎ教会へ……」

 先ほどの騒ぎを知っているのか、言いにくそうに神官見習いだろう子が声をかけてくる。
 私に対して、なかなか視線を合わせられないのも、申し訳なさの気持ちか、同情か。どちらにせよ、空気が最悪な事には違いない。

「わかりました」

 神官見習いの子へ向かい言えば、少し安堵の表情を見せた。ここで行かないと私がごねたら、色々と大変なのだろう。この子は全くもって悪くないというのに。

「アンヌ……」

 既に表情を見せない、無と化したマリー。そして、心配そうに私の名前を呼ぶお父様と共に、足取り重く、教会へ歩みを進める。

 ――どんな見世物扱いされるのやら。

 重い溜息を付きながら、三人で教会に辿り着けば、先行く神官見習いの子が教会の入り口前でピタリと歩みを止めた。
 どうしたのか。
 教会の入り口前には少しだけ階段があり、数段下に居る私達には、神官見習いの子が見ている視線の先は分からない。……が、そこで見知った声が耳に入った。
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