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 心とは裏腹な快晴。
 まさしく絶好の結婚式日和とも言える。

「お美しいですね、お嬢様。心境は別として」
「着飾って貰ったからね……」

 マリーはチベットスナギツネのような顔で、只々必死に私をこれでもかと言う程に着飾ってくれた。
 あんなのに嫁ぐ為、これ以上ない位の晴れ姿に着飾る必要があるなんて!と喚いていたけれど、仕事だと割り切ってくれる辺り、マリーはしっかりしていると思う。
 まぁ、もう何も感じないというか考えないようにしているのだろうけれど。それは表情が物凄く物語っている。
 乗り気ではない結婚。だけれど、一生に一度の晴れ舞台。そして、やはり貴族同士の繋がりを他の貴族達に知らしめる意味を持って、周辺の貴族達は参加しているのだ。そんな中でみすぼらしい恰好なんてしていては、ただの恥だ。
 だからこそ、昨日からお風呂で磨かれ、全身マッサージまで念入りにされ、食べる物や飲む物さえも制限されていたのだ。……貴族として生まれた者の義務だと諦めてはいるけれど。

「アンヌ」
「お父様」

 思いつめたような表情で、お父様が控室に入って来た。

「……嫁ぐ事になってしまったら、本当に申し訳ない」
「……まだ、分かりませんよ」
「……」

 無言が物語る。
 クレシー侯爵家は、ブリジット嬢の言いなりだ。このまま何事もなく終わるとは思えない。

「しかし、何事もなかったら……」

 お父様は苦虫を噛みしめたかのような表情で、身体を震わせる。それ程までに、押し切られた婚約を後悔しているのだろう。
 そこまで大事に思ってもらえている事に、嬉しさを覚える。

「……ありがとうございます」

 マリーにしろ、お父様にしろ、大事に思ってもらい、愛されている。
 それを知り、感謝の気持ちを覚えた事は、自分なりにも成長できた事だとは思える。むしろ、今回の件で愛情を知る事が出来たのは、私にとって何よりの財産だ。
 ……先行きには、まだまだ不安しかないけれど。
 覚悟を決め、控室から出ようとした時、外から騒めく声が聞こえてきた。

「何?」
「どうしたんだ?」

 私とお父様が、視線を扉の方へ向ける。何故かウキウキと楽しそうな表情をしたマリーが、今にもスキップするかのような軽やかさで、扉の方へ向かい、外へ出て行った。

「……ふむ」

 険しい表情となったお父様は、胸元から一枚の紙を取り出す。
 横目でそれを見れば、クレシー侯爵と結んだ契約書だった。必要になるかもと思い、持ってきたのだろう。
 私も、前もって、その内容は確認させてもらった。

「お嬢様!」

 扉を見つめていれば、ノックもなしにマリーが嬉しそうな表情と声色で、いきなり扉を開け放つと、私の方へ軽やかに駆けてきた。
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