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「え?」
「なんで?」

 理解出来ないと言った様子の二人が、声を放った。
 むしろ、どうしてそこで疑問を持つのかが私には理解出来ない。

「私にとっても結婚式は一生に一度の事で、それを譲れば私はバージンロードを歩く事が出来なくなってしまうんですよ?」
「良いじゃない! 貴女はまだ、結婚が出来るんだから……私なんて……」
「義姉さん!」

 ホロホロと大粒の涙を流し始めるブリジット嬢に、ジャンは目に見えて分かる程に狼狽え始め、クレシー侯爵の侍女達は焦り始めた。一人は何故か大慌てで部屋から駆け出ていったけれど。

「アンヌ! 義姉さんを泣かせるなんて……っ!」
「私は間違った事なんて言っていないわ」
「義姉さんを泣かせる事が既に間違ってる!!」

 何という理屈なのだろう。意味が分からない。
 泣かせてはいけなくて、ブリジット嬢の望みを全て叶える世界だとでも言うのだろうか。そんなもの、貴方達だけの小さな世界でしか通用しないというのに。
 ジャンを夫……否、次期クレシー侯爵として、私が育てなければならないのだろうかと頭を痛めながら、次の言葉を発そうとした時、廊下から慌ただしい足音が聞こえた。

「ブリジット!」
「お父様!」

 ノックもなしに扉を開け放ったのは、現クレシー侯爵だ。
 慌てるように入って来た侯爵は、駆け寄ってきたブリジット嬢を抱きしめ、頭を撫でた。

「どうしたんだ、こんなに泣いて」
「私……どうせ結婚なんて出来ないから、ジャンの結婚式で私にバージンロードを歩かせて欲しいってアンヌ嬢にお願いしたの……だけど断られて……」

 断って当たり前の事だろうと、私はバレないように溜息を吐いた。クレシー侯爵が出て来てくれたなら、何とかブリジット嬢を説得してくれるだろう。

「なんだ……そんな事か」

 安堵するかのように息を吐き、クレシー侯爵はブリジット嬢の背中をゆっくりさすった。そのまま、言い聞かせてくれるものかと思っていたのだが……。

「アンヌ子爵令嬢。それくらい良いじゃないか。ブリジットにバージンロードを歩かせてくれ」

 聞こえてきたのは、ありえない言葉。
 思わず私は目を見開いてしまった。

「……本気、ですか?」

 言外に色んな意味を含めたかのように、強く、短く、問いかける。
 ジッと、クレシー侯爵から目を離さないよう。だけれど、クレシー侯爵は直ぐにバツが悪そうに私から目を反らした。
 自分達の主張が間違ったものだという認識はあるのだろう。

「……アンヌ子爵令嬢……ブリジットは、今こうして起き上がる事が出来ているだけで奇跡のようなんだ……」
「お父様!」

 感極まったかのように抱き着くブリジット嬢を、クレシー侯爵は尚も強く抱きしめた。
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