上 下
7 / 21

07

しおりを挟む
「ねぇ! お願い!」

 式まで一週間を切り、私は珍しくクレシー侯爵家で、ジャンとゆっくり茶会をしている時だった。ブリジット嬢がサロンに飛び込んできては頭を下げ、大声を張り上げたのは。

「そんな大声なんか出して……ブリジット嬢は病弱なのでしょ?」
「そうよ! だからお願いがあるの!」

 お前は本当に病弱なのか、という意味を言外に乗せたが、気が付いていないのだろう。更にお願いの後押しをされた私は、痛む頭を抑えたくなった。

「どうしたの? 義姉さん。お願いって?」

 親切に聞くジャン……否、ブリジット嬢の言いなりだからこそ、その願いを叶える為に聞くのだろう。聞く前から叶える為に動く事は目に見えている。
 一体何を言いだすのか……耳にすら入れたくないが、私はもう逃げられないと腹をくくった。

「お願い! 私にバージンロードを歩かせて!」
「……は?」

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまう程、私はブリジット嬢の放った言葉が理解できなかった。否、理解したくないというか、現実的にありえなさすぎる事すぎて、耳に入れたくなかったとも言える。

「だーかーらー。私にバージンロードを歩かせて欲しいって言ってるの! 耳大丈夫?」

 お前は頭が大丈夫か。
 そう思ったが、呆気に取られ過ぎていた私は、それを言葉として放つ事が出来なかった。
 あまりの内容すぎて、マリーも口と目を見開いて、何の挙動も起こせていない。

「私、体が弱すぎて結婚なんて到底無理だもの……だからお願い! バージンロードを歩いてみたいの! 結婚式って一生に1回のものも出来ないのよ!」

 頭が弱すぎるの間違いでは?
 私にとっても結婚式なんて一生に1回で、父親と歩けるバージンロードは最初で最後なのだけれど?
 あまりの内容に、理解するのを拒んだ脳内が混乱を極める。一体、この人は何を言っているのだろう?と。とても正気の沙汰とは思えない。

「良いね! 義姉さんのバージンロードを歩く姿、俺も見てみたいよ!」

 馬鹿追加。
 ここは動物たちの森ですか?人間はいませんか?私は人間ですよね?だって言葉の意味が理解できないんですもの。というか、この人達は本当に人間の言葉を話しているのですか?
 未だに呆然とし続け、脳内でだけ突っ込みを入れている私だが、マリーは違ったようだ。
 怒りが限界に達したのか、その身体を震わせ、目は血走っている。漂っている殺気で部屋の室温がどんどん下がっているのか、少し寒さまで感じる。
 このままでは、マリーが何かをしでかし、不敬罪だと言われかねない。そう感じた私は、やっと口を開く事が出来た。

「お断り致します」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

令嬢は大公に溺愛され過ぎている。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,116pt お気に入り:16,119

【完結】浮気性王子は婚約破棄をし馬鹿な妹を選ぶ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:255pt お気に入り:421

短編集・異世界恋愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:958pt お気に入り:799

【完結】断罪後の悪役令嬢は、精霊たちと生きていきます!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,925pt お気に入り:4,109

不遇の人形王妃は三語しかしゃべれません。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:134pt お気に入り:2,033

愛なんて期待していなかったのに

恋愛 / 完結 24h.ポイント:369pt お気に入り:194

【完結】姉に婚約者を寝取られた私は家出して一人で生きていきます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,128pt お気に入り:5,593

処理中です...