2 / 21
02
しおりを挟む
「本当に申し訳なかった!」
翌日、謝罪に訪れたジャンは、私に向かって勢いよく頭を下げた。
「……」
「でも、アンヌは俺の事情をよく知っているだろう?」
何も言わず、ただ紅茶を口に含むだけの私に向かって、ジャンは縋るような瞳で訴えてきた。
「貴族の婚姻なんて、家同士の契約でしかないものね」
「そうじゃなくて! 俺の立場だよ!」
言外に、お前に対して一切の興味はない、という意味を含めたのだけれど、ジャンは全く気が付いていない。
「……昨日も義姉さんが倒れて、俺しか邸に居なかったから……」
「毎回デートの日にばかり倒れるとは、ご都合が良いようで」
「義姉さんは体が弱いんだから仕方ないだろう!」
事実に憶測を付け加えて答えた私に、ジャンは噛みつくかのように返してきた。でも、本当に私との約束がある日にしか倒れないのは都合が良いとしか思えない。マリーも視界の隅で、思いっきり何度も頷いていた。
「……だから俺が養子に入ったわけだし……」
呟くような声。
そう、クレシー侯爵家には一人娘が居る。それがブリジット・クレシー公爵令嬢だ。
ただ、ブリジット嬢はとても身体が弱く、家を継げる程ではないという事で、遠縁の男爵家からジャンが養子縁組されたのだ。立場的にジャンは義姉に強く出られないのも理解できる。できるけど、跡継ぎとして侯爵家に入ったのであれば、貴族同士の付き合いも考えなければいけない。
毎回のように、義姉を優先し、婚約者との約束を土壇場で無しにするのは、いかがなものか。……なによりも問題は、それをクレシー侯爵に訴えても変わらない事だ。
本当に、ヴァロア子爵家を見下しすぎなのではないだろうか。
「正当な血筋である義姉さんを蔑ろになんて出来ない……アンヌなら分かってくれているだろう?」
お決まりの言葉に、いい加減、平手打ちをかましたくなる程だ。けれど、マリーが今にもジャンに飛び掛からん形相で身体を震わせているのを見れば、少しは溜飲が下がる。
「……式の準備があるという事を忘れてはいませんよね?」
そう、あと3か月もすれば結婚式があるのだ。
昨日だって、業者を入れる前に、二人だけで打ち合わせをする筈だった。二人の考えをすり合わせて、お互いの家を尊重した式を、と。
「あぁ! 勿論だとも! 忘れてはいないよ!」
私に許されたと思ったのか、ジャンは安堵の笑顔で答えた。
所詮、家同士の契約でしかない結婚に、私的な感情は必要ないのだ。私はジャンに対して特別な感情は抱いていない。ただ家との繋がり、利益の為に結婚をする。けれど、ここまで見下されたままで良いのか……私の胸に少し靄が出来た。
翌日、謝罪に訪れたジャンは、私に向かって勢いよく頭を下げた。
「……」
「でも、アンヌは俺の事情をよく知っているだろう?」
何も言わず、ただ紅茶を口に含むだけの私に向かって、ジャンは縋るような瞳で訴えてきた。
「貴族の婚姻なんて、家同士の契約でしかないものね」
「そうじゃなくて! 俺の立場だよ!」
言外に、お前に対して一切の興味はない、という意味を含めたのだけれど、ジャンは全く気が付いていない。
「……昨日も義姉さんが倒れて、俺しか邸に居なかったから……」
「毎回デートの日にばかり倒れるとは、ご都合が良いようで」
「義姉さんは体が弱いんだから仕方ないだろう!」
事実に憶測を付け加えて答えた私に、ジャンは噛みつくかのように返してきた。でも、本当に私との約束がある日にしか倒れないのは都合が良いとしか思えない。マリーも視界の隅で、思いっきり何度も頷いていた。
「……だから俺が養子に入ったわけだし……」
呟くような声。
そう、クレシー侯爵家には一人娘が居る。それがブリジット・クレシー公爵令嬢だ。
ただ、ブリジット嬢はとても身体が弱く、家を継げる程ではないという事で、遠縁の男爵家からジャンが養子縁組されたのだ。立場的にジャンは義姉に強く出られないのも理解できる。できるけど、跡継ぎとして侯爵家に入ったのであれば、貴族同士の付き合いも考えなければいけない。
毎回のように、義姉を優先し、婚約者との約束を土壇場で無しにするのは、いかがなものか。……なによりも問題は、それをクレシー侯爵に訴えても変わらない事だ。
本当に、ヴァロア子爵家を見下しすぎなのではないだろうか。
「正当な血筋である義姉さんを蔑ろになんて出来ない……アンヌなら分かってくれているだろう?」
お決まりの言葉に、いい加減、平手打ちをかましたくなる程だ。けれど、マリーが今にもジャンに飛び掛からん形相で身体を震わせているのを見れば、少しは溜飲が下がる。
「……式の準備があるという事を忘れてはいませんよね?」
そう、あと3か月もすれば結婚式があるのだ。
昨日だって、業者を入れる前に、二人だけで打ち合わせをする筈だった。二人の考えをすり合わせて、お互いの家を尊重した式を、と。
「あぁ! 勿論だとも! 忘れてはいないよ!」
私に許されたと思ったのか、ジャンは安堵の笑顔で答えた。
所詮、家同士の契約でしかない結婚に、私的な感情は必要ないのだ。私はジャンに対して特別な感情は抱いていない。ただ家との繋がり、利益の為に結婚をする。けれど、ここまで見下されたままで良いのか……私の胸に少し靄が出来た。
128
お気に入りに追加
3,544
あなたにおすすめの小説
許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?
風見ゆうみ
恋愛
ネイロス伯爵家の次女であるわたしは、幼い頃から変わった子だと言われ続け、家族だけじゃなく、周りの貴族から馬鹿にされ続けてきた。
そんなわたしを公爵である伯父はとても可愛がってくれていた。
ある日、伯父がお医者様から余命を宣告される。
それを聞いたわたしの家族は、子供のいない伯父の財産が父に入ると考えて豪遊し始める。
わたしの婚約者も伯父の遺産を当てにして、姉に乗り換え、姉は姉で伯父が選んでくれた自分の婚約者をわたしに押し付けてきた。
伯父が亡くなったあと、遺言書が公開され、そこには「遺留分以外の財産全てをリウ・ネイロスに、家督はリウ・ネイロスの婚約者に譲る」と書かれていた。
そのことを知った家族たちはわたしのご機嫌伺いを始める。
え……、許してもらえるだなんて本気で思ってるんですか?
※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
【完結】都合のいい女ではありませんので
風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。
わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。
サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。
「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」
レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。
オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。
親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。
※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
〖完結〗旦那様には本命がいるようですので、復讐してからお別れします。
藍川みいな
恋愛
憧れのセイバン・スコフィールド侯爵に嫁いだ伯爵令嬢のレイチェルは、良い妻になろうと努力していた。
だがセイバンには結婚前から付き合っていた女性がいて、レイチェルとの結婚はお金の為だった。
レイチェルには指一本触れることもなく、愛人の家に入り浸るセイバンと離縁を決意したレイチェルだったが、愛人からお金が必要だから離縁はしないでと言われる。
レイチェルは身勝手な愛人とセイバンに、反撃を開始するのだった。
設定はゆるゆるです。
本編10話で完結になります。
【完結】嗤われた王女は婚約破棄を言い渡す
干野ワニ
恋愛
「ニクラス・アールベック侯爵令息。貴方との婚約は、本日をもって破棄します」
応接室で婚約者と向かい合いながら、わたくしは、そう静かに告げました。
もう無理をしてまで、愛を囁いてくれる必要などないのです。
わたくしは、貴方の本音を知ってしまったのですから――。
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!
風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。
結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。
レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。
こんな人のどこが良かったのかしら???
家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
【完結】幼馴染と恋人は別だと言われました
迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」
大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。
毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。
幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。
そして、ある日突然、私は全てを奪われた。
幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?
サクッと終わる短編を目指しました。
内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる