召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり

文字の大きさ
上 下
43 / 43
番外編

番外.双子たち

しおりを挟む
 冷や汗を垂らしながらも執務を行うが、当たり前のように集中なんて出来ていない。
 痛みのある部分を無意識的に擦るのは、人間の本能なのか。

「アレス~、大丈夫?」
「お腹痛い?」
「アイとサクラか……」

 いつの間に忍び込んだんだ、なんて言葉は無意味だろう。
 なんてったって相手はスワ様と叔父上の子ども。更に言えば剣聖と聖女の称号を持って生まれた双子なのだ。

「ちょっと良い?」
「スオウ?」

 言って、お腹を触って強く押したりするのは、スオウだ。スオウもスワ様と叔父上の子どもで……何と勇者の称号を持って生まれた。本当にあの二人は一体なんなのだと思う。

「ちょっと待っていてね」
「私も行くー!」
「私もー!」

 三人は急いで執務室から出て行く。……薬でも用意してくれるのだろうか。最近は気分が悪くて何も喉が通らない。というか、原因は分かっているのだけれど……。

「あ、蘇芳! ワジムが探してたよ?」
「あいつ弱い!」

 ……騎士団長相手に弱いとは。さすが勇者……ワジムが聞いたらへこむだろうけれど事実だから仕方がない。
 スオウの相手になるのは、スワ様かキラしか居ないだろう……甥の将来が怖い。怖すぎる。いや、甥だけでなく姪もだけれど。

「あれ? アレスが死んでる」
「勝手に殺さないで……」

 開け放たれた執務室の中で屍と化しているのに気が付いたスワが声をかけ、入ってくる。

「どうしたの?」
「ちょっと……お腹痛くて……食欲もあまりないんだ」
「……アレス、それ出てるの?」

 スワ様の率直な一言に、ギクリとした。
 無言でいると、スワ様の鋭い視線が突き刺さり、正直に言えというオーラが殺気のように漂う中で観念して口を開く。
 ……一週間程、出ていない、と。





「アレス! 出来たよ~!」
「それは……?」

 スオウが持ってきた料理は初めて見るものだった。

「便秘には梅流し!」
「あと、水溶性食物繊維の海藻と不溶性食物繊維のきのこ、不飽和脂肪酸のナッツとオリゴ糖の果物、発酵食品も持ってきたよ!」
「大きな声で言わないでくれるかなぁ!?」

 執務室とは言え、そんな大声で言われたら恥ずかしくて仕方ない。
 アイとサクラの手には料理でなく食材があるのは助かった。今食べろと言われても食べられないから、あとで料理長にでも渡しておけば良いだろう。
 まずはスオウの手にある、食べやすそうな料理に手をつける。意外と食べやすくて、酸味が食欲を後押ししてくれる感じだ。

「……それ、誰が作ったの?」
「サクラだよ!」
「空腹時に梅流し……しかも料理スキルを持つサクラが作ったのかぁ……」

 食べ終えた後に聞こえたスワ様の言葉。
 悪い予感でもあったのだろうか、それは見事に的中した。料理スキル……なめてはいけない。

「いつまでもトイレにこもられては執務が進まないんですけど!?」
「前に居ないで! どっか行って! そう言われても仕方ないだろー!?」

 見事にトイレの住人となった。
 そして何より一番鬼だったのは、トイレの中にまで書類を詰め込んだピーターだと思う……。国王に人権はないの……か?
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。