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番外編
番外.グレイ-二巻刊行予定SS
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――魔王を呼びに行かなければ。
連日……いや、連年の多忙さにて脳の働きがどこかおかしくなっていたのかもしれない。
魔物の個体数が減っていき、魔界存続の危機に直面だと思った矢先に勇者が召喚されたと聞けば、焦りが強く出て冷静な判断が下せなかったのかもしれない。
所詮、今更の事だが、その時は魔界から出て魔王を呼びに行ったものだ。その時には人間の姿に擬態する事が出来なかったわけで……。
「……魔界もだいぶ様変わりしましたね」
「そうですね! これもスワ様達のおかげですね」
仕事を手伝ってくれている人型の魔物は破顔して言った。今やスワ様達は魔界を救った救世主だ。
「私達は今の魔界しか知りませんが……」
「聞き伝えられた事や、伺った事から相当深刻な状況だった事は把握しますが……」
アルカシック国から派遣された人間が困ったような表情をして言う。
アレス王太子殿下とやらは約束通りに街道を整え、こうやって人を派遣してくれたのだ。……今まで人間と敵対していた事が、まるで夢のようだと言わんばかりに。
今は人間と魔物が手を取り合い、しっかり協力関係を結ぶまでに至っている。
たまに魔物を高額で売りさばこうとする愚かな人間が出現する事だけが悩みの種だ。
「豊かな緑……柔らかい土……」
実った作物を見て、私は魔王を呼びに行った時の事を思い出す。
擬態を解いて、自分の姿をどれくらいぶりに曝け出しただろう。やはり、真の姿というものは楽なのだ。
皆が寝静まった夜中。
真っ暗な闇が辺りを包み、これならばと柔らかい土の上に立ち、私は擬態を解除して、そこに寝転がる。
天然の素晴らしいベッドだ。思わず地面に対して頬ずりをしていれば、どこからか息を飲む音が聞こえ顔をあげた。
「……」
「……」
お互い、無言で見つめ合う事、数秒。
訝し気な目で見つめる人物は、よく知る人で、その隣には……
『あ、グレイ―』
「グレイ!?」
『この脳無し魔王めが』
『酷い!』
あっさり自分の正体を吐いた魔王に悪態をつく。
そう、そこに居たのはスワ様で、私は自分の姿を見られた事に恥ずかしさを覚える。
どこぞの犬のように全裸で歩き回るのは、ずっと擬態をしていた私にとっては羞恥心が沸き起こるようなものなのだけれど、スワ様は何故か顔を青くしたままだ。
……気持ちが悪かったのだろうか。
少し心配という感情が沸き起こった時、スワ様は聖獣と魔王を守るように立ちはだかった。……私、側近なのですが?
だけれど、スワ様から放たれた言葉で私は脱力した。
「……蛇は鳥や猫にとって天敵なのでは!?」
「鳥ではありません!」
『猫じゃないよ!?』
二匹が突っ込みを入れてくれたけれども、私は何となく所在なさげに人型へと擬態した。
……そこまで警戒されるのは、側近として何とも言えない感情が沸き起こってしまう。
そして、擬態を解く時は、もっとしっかり周囲を確認して一匹きりになった時にしようと心に決めたのだ。
連日……いや、連年の多忙さにて脳の働きがどこかおかしくなっていたのかもしれない。
魔物の個体数が減っていき、魔界存続の危機に直面だと思った矢先に勇者が召喚されたと聞けば、焦りが強く出て冷静な判断が下せなかったのかもしれない。
所詮、今更の事だが、その時は魔界から出て魔王を呼びに行ったものだ。その時には人間の姿に擬態する事が出来なかったわけで……。
「……魔界もだいぶ様変わりしましたね」
「そうですね! これもスワ様達のおかげですね」
仕事を手伝ってくれている人型の魔物は破顔して言った。今やスワ様達は魔界を救った救世主だ。
「私達は今の魔界しか知りませんが……」
「聞き伝えられた事や、伺った事から相当深刻な状況だった事は把握しますが……」
アルカシック国から派遣された人間が困ったような表情をして言う。
アレス王太子殿下とやらは約束通りに街道を整え、こうやって人を派遣してくれたのだ。……今まで人間と敵対していた事が、まるで夢のようだと言わんばかりに。
今は人間と魔物が手を取り合い、しっかり協力関係を結ぶまでに至っている。
たまに魔物を高額で売りさばこうとする愚かな人間が出現する事だけが悩みの種だ。
「豊かな緑……柔らかい土……」
実った作物を見て、私は魔王を呼びに行った時の事を思い出す。
擬態を解いて、自分の姿をどれくらいぶりに曝け出しただろう。やはり、真の姿というものは楽なのだ。
皆が寝静まった夜中。
真っ暗な闇が辺りを包み、これならばと柔らかい土の上に立ち、私は擬態を解除して、そこに寝転がる。
天然の素晴らしいベッドだ。思わず地面に対して頬ずりをしていれば、どこからか息を飲む音が聞こえ顔をあげた。
「……」
「……」
お互い、無言で見つめ合う事、数秒。
訝し気な目で見つめる人物は、よく知る人で、その隣には……
『あ、グレイ―』
「グレイ!?」
『この脳無し魔王めが』
『酷い!』
あっさり自分の正体を吐いた魔王に悪態をつく。
そう、そこに居たのはスワ様で、私は自分の姿を見られた事に恥ずかしさを覚える。
どこぞの犬のように全裸で歩き回るのは、ずっと擬態をしていた私にとっては羞恥心が沸き起こるようなものなのだけれど、スワ様は何故か顔を青くしたままだ。
……気持ちが悪かったのだろうか。
少し心配という感情が沸き起こった時、スワ様は聖獣と魔王を守るように立ちはだかった。……私、側近なのですが?
だけれど、スワ様から放たれた言葉で私は脱力した。
「……蛇は鳥や猫にとって天敵なのでは!?」
「鳥ではありません!」
『猫じゃないよ!?』
二匹が突っ込みを入れてくれたけれども、私は何となく所在なさげに人型へと擬態した。
……そこまで警戒されるのは、側近として何とも言えない感情が沸き起こってしまう。
そして、擬態を解く時は、もっとしっかり周囲を確認して一匹きりになった時にしようと心に決めたのだ。
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