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2巻
2-1
しおりを挟む第一章 魔界へ
「時間がたつのは早いなぁ」
あっという間に過ぎ去った時間を思い起こして呟けば、窓から心地いい風が入り込み、ストレートロングの黒髪をそっと撫でる。
電柱なんてものはなく、建物も木造や鉄筋ではなく石造り。そして柱には見事な彫刻が施されているあたり、まさに中世を思い起こさせる。
警察の代わりに、腰から剣をぶら下げている騎士や衛兵が闊歩するのも、もう当たり前の光景にしか思えない。
私――早崎由希子は、こことは違う世界にある日本という国で生まれ育った。今はその時に使っていたSNSのハンドルネーム「スワ」と名乗っている。
「スワさん。おばさん臭い」
「うっ」
スワと呼ばれる事にも慣れた私に鋭い言葉を返したのは、同じく日本で生まれ育った女の子――オトちゃんだ。
ピンクブラウンのウェーブがかった肩までの髪。大きな瞳の可愛い顔立ちで、出会った時はまだ女子高生だった。
「ただでさえ女は二十五過ぎたらアウトなのに! 発言まで年寄り臭くしてたら駄目でしょ!」
「クリスマスケーキに例えるなんて古! 今は年越しそばでしょ!」
「年越しそばでも危ういでしょうが! てか、こっちの世界での話よ‼ スワさんと近い年齢の男なんて皆既婚者だし、貴族なんて若いうちからとっとと婚約者を作ってんだから、売れ残りが確定したらどうするの!?」
オトちゃんは問答無用で言葉の棘を私の心へと突き刺していく。
と言っても、私には結婚願望なんて一切なく、故郷の世界で味わえなかった自由を噛みしめ、今を楽しく生きているだけだ。
私達がこの世界に来たのは、約二年前になる。
男社会の中でキャリアを積み上げ、睡眠時間までも削り、一分一秒を惜しむ社畜の日々の中で、見事に婚期を逃した二十八歳。それが私だった。
睡眠時間を渇望する帰り道、いきなりこの世界へ召喚という名の誘拐にあい、こちらへの片道切符を余儀なくされた。その時一緒に召喚されたのが、当時十六歳だったオトちゃんだ。
私達が巻き込まれたのはどうやら聖女召喚の儀だったらしく……
この国の第一王子で王太子のエリアスとやらは、聖女は若くて美しいものという固定観念でオトちゃんを聖女だと決めつけ、私に対してババァは出て行けと言った。
……今思い出しても怒りが込み上げる。
まぁ当時も腹が立って、出て行く為に周囲を囲っていた騎士達をボコったのだけど。
柔道・空手・合気道・剣道を習っていたおかげか、見事にスキルにまで反映されていた私には造作もない事だった。
国を助けてくれとかいう勝手な言い分と都合から聖女召喚を企てた国に愛想を尽かし、私は結局のところ城を出て、数少ない仲間と共に自由気ままな異世界生活を楽しんでいたのだが……
私は私が大事にするものの為に力を使い、自らの聖女としての能力を顕現させた。聖女が私だったと判明した事で馬鹿……基、第一王子は王太子から外された。
「フェリックス・ダレンシア王弟殿下」
オトちゃんが呟いた名前にドキリと心臓が跳ねて、思わず振り返る。そこにはニヤニヤと面白そうなものを見る目をしたオトちゃんがいた。
フェリックス・ダレンシア王弟殿下、通称フェス。この世界へ召喚されてから、ずっと一緒にいて、もはやそれが当たり前になっている家族のような存在だ。
王弟と言っても騎士として私の護衛をしているフェスだが、私の「一緒にいて欲しい」という言葉に頷いてくれた、かけがえのない人でもある。
そういえばオトちゃんが作った、全身フェスの色をまとった「独占欲丸出しペアルック」なドレスを着て、フェスにエスコートされて舞踏会へ出た事を思い出し、自分でも羞恥心から赤面していくのが分かった。
「ス・ワ・さ~ん」
「てか、俺で良かったんっすか?」
オトちゃんの言葉を遮って、白い神官のようなローブを着た、もやし体型のおっさんが声をかけてきた。肩につく位まで伸びた少し乱れた黒髪と黒い瞳で、同郷だという事が一目で分かる。
天の助けと言わんばかりに私はそちらへ視線を向けるが、オトちゃんはタイミング悪すぎと呟いて睨みつけている。
「同じ異世界人のよしみで良いんじゃない?」
棚瀬暁良、通称アキ。私達より一年遅れて勇者として召喚された。
私達の時もそうだったのだけれど、そもそも召喚に使われていた魔法陣は、望んだものを呼び寄せるというもの。そこに邪な心が加わっていた為に、聖女以外のオトちゃんまで紛れ込んだのだろうと予測されている程だ。
まさに諸刃の刃のようなものだろう。
アキの時も、勇者を呼び寄せたつもりなのだろうが、出て来たのは四十歳で社会経験ゼロの自宅警備員。どんな望みが混ざったのか知らないが、勇者の要素が皆無かと思いきや、アキは多重人格だったのだ。
両親からの虐待を受け、それから身を守る為に作られたキラという人格は、まさしく愉快犯。正当防衛とはいえ両親を殺した瞬間に召喚されたという、とんでもない奴だ。
しかも、キラは闇魔法なんてものが使える為に、魔力を封じて神殿預かりの様子見とされている。
だからこそ、もはや勇者というより魔王降臨に近いのではないだろうか。まぁ、この世界で魔王と呼ばれる者は、また別にいるけれど。
そして、聖女というのは浄化や治癒などの光魔法を使える者だ。
しかし、全くもって聖女の実感なんてない。
私は、ただのスワ。大切な人達と一緒に暮らしたいだけで、聖女の地位なんていらないのだ。
「まぁ無事に終わったし、結果良し!」
今日はオトちゃんの子どもに、神殿で祝福を与える日。
日本と同じで、この世界にも色々と儀式的なものがあるのだろう。子どもが健康に成長できるようにと、神に名前を伝えるという内容なのだが、オトちゃんのごり押しで、何故か神官の類ではなくアキが行ったのだ。
「でも……名前……」
「うるっさいわね! 日本を忘れないのに良いでしょ!」
聖女の力をこの国へ留める為、五人の花婿候補がいた。当初、聖女だと思われていたオトちゃんは外見がすこぶる良い男性達と遊び、結果身ごもった。それが、この子だ。
まぁ、五人と言っても、婿候補のうち一人は側にいなかったけれど、その代わりに第一王子馬鹿が常に側にいた。
……内訳は変わっても、人数的には変わりないか。
「ナデシコ……こっちで言うキラキラネームになるのでは?」
「うっ」
「どしたっすか?」
自身がキラキラネームで苦労してきたオトちゃんは呻く。
本名、三宅音。オトちゃんの唯一と言っても過言ではない程のコンプレックス。
しかし、その事を知らないアキは、顔色の変わったオトちゃんを純粋に心配していた為、私は懇切丁寧に説明した。決して先ほどの暴言に対する仕返しではない。多分。
「あーっはっはっはっは! メロディ! メロディ‼ マジっすか‼」
「文句は親に言いなさいよ! なに!? 男なら大和! 女なら撫子! 異世界の要素を残してやったのよ!」
案の定、お腹を抱えて大爆笑しているアキは、そろそろ呼吸困難に陥るのではないかというくらいヒーヒー呻いているのに対し、オトちゃんは顔を真っ赤にして叫んでいる。
「大和撫子……でも、ありかもね~」
日本男児とか、古き良き伝統なんてものが薄れていった現代社会。向こうにいた頃は、速く簡単な新しい科学技術などに目移りして、伝統なんて知らない面倒くさいとさえ思っていた。
そもそも近所付き合いもなければ、余暇の時間もない程の社畜が、大勢蔓延っていた世界のように思える。下手すれば親の死に目にも会えない程だ。
なのに、まさか二度と戻れないようになってから、日本の古き良き伝統を懐かしむとは思ってもみなかった。
「撫子色と言えばピンクに近いっすよね。藍、萌黄、菖蒲、桜、紅、蘇芳、桔梗……スワさんの子どもの名前は、和の色から取るのどうっすかね?」
「あ……!」
オトちゃんが止める間もなく、私は植物の蔓をアキに纏わりつかせて、四肢を拘束した上に口を塞いだ。
「じゃ、帰るわ~」
「んーー‼ んんんーーー!」
私は呻いているアキをそのまま置き去りにし、帰ろうと扉へ向かう。背後からオトちゃんが楽しそうに魔法の練習用に解いてみるわと言う声が聞こえた。
それと共にアキの呻き声が、どことなく悲鳴に変わった気がしたけれど、気にせず扉を閉める。
「スワ様。村にお帰りへとなられますか?」
扉の前に待機していた、サラサラとした綺麗な金髪に青い瞳の、騎士服に身を包んだ美丈夫が声をかけてきた。
この人こそ、フェリックス・ダレンシア王弟殿下。私はフェスと呼んでいる。
出会った時は全身甲冑姿で、王弟である事を隠して私の側にいてくれたのだけれど、今となってはきちんと顔を出してくれている。まぁ、イケメン耐性のない私は慣れるのに時間もかかったし、なんなら今もたまに心臓への負担が大きい時もある。
「もう要件は済んだだろ? 他にも何かあるとか?」
フェスの後ろから、オレンジ色の髪をし、魔術師風の服に身を包んだ十代後半くらいの男の子が顔を出した。
ルーク・ドレスラー子爵令息。子爵と言っても、父親は魔術師団長だ。
召喚されてすぐは、魔術師団長と宰相には気にかけてもらっていた。特に宰相には、彼の頭皮が心配になるくらいの苦労をかけた。主な原因は第一王子なのだが。
そしてルークも魔術の腕前は見事で、国内トップ二の魔術師な上に魔道具作り馬鹿で、聖女の花婿候補でもあった。
しかし能力よりも地位を重要視した馬鹿……基、第一王子が、聖女が二人召喚されているという異例の事態に対して、慎重に事を進めるべきだと進言したルークを、私のお目付け役にしたという過去がある。
そのおかげと言うべきか、今もまだルークは私の側で、異世界のアイデア盛りだくさんな魔道具作りに没頭していたりもする。
というか、そもそも私が住んでいるのは当初追い出された時に送られた辺境の村だ。そこに建てられた一夜城ならぬ、一瞬城なのだけど……
そこで自由を手に入れた私は、畑を作り自給自足スローライフという楽しい毎日を送っている。だからこそ、王城に居るのは堅苦しい上にトラウマも掘り起こされるから嫌なのだ。
けれど……オトちゃんの手伝いをするために、しばらく滞在していただけだ。その手伝いが終わった今、王城にいる理由は全くないのでフェスの言う通り村に帰っていいのだが……
帰る前に、とても大事な目的があるのだ。
「スワ様、お話してはどうでしょう?」
パタパタと羽を羽ばたかせてきて、私の肩に止まった白い鳥。名はシロ。
こう見えても聖獣で、聖女の放つ光が大好きな聖女至上主義者だ。
国王より立場は上で、歴代聖女達により異世界の言葉を教えてもらった為か、語彙力が豊富すぎて口が悪い。
……聖獣なのに。可愛いのに。
「クロの事ですか?」
「なら、とっとと帰って準備しようぜ。携帯食を作らないとな」
フェスもルークも、私が考えていることに気が付いていたのか。
しかし、またしても国内トップ二の魔術師と、王弟を引き連れて行くには気が引ける。
……今更だけど。それに今回は、どれほどの時間がかかるのか分かっていない。
素直に頷かない私を見て、シロは大きく羽を広げて嘴を開けた。
「皆スワ様に付いて行きたいんですよ! スワ様は魅力的ですからね!」
なんか全力で否定したい一文が入っている気がして、私はチベットスナギツネのような顔になった。
世の煌びやかでナイスバディな女性達に対する嫌味になってしまうぞ、それ。この世界にはコルセットというものがあるが、だからといってあそこまで細く出来るという事は、元が細くないと厳しい。寄せてあげて詰める胸も、そこそこないと谷間すら難しいだろう。
……そのうちオトちゃんが何か開発したり、整形メイクなるものを広めそうだけれど。
腰を据えて話そうと、三人プラス一匹で王城に与えられた私の部屋へと向かい、メイドにお茶を淹れてもらう。
淹れてもらったのは玄米茶だ。
そういえば来た当初は、味付けがほぼない不味い料理を苦行のように食べさせられていたのが懐かしい。ハーブや歴代聖女が作り出した調味料を使って食事改革を成功させて本当に良かった。使い方まではしっかり伝わっていなかったみたいだからね。
……何か、料理スキルなるもので、私が作った料理を食べるとちょっとだけ回復等の効果があるらしいけれど。
ソファに座って玄米茶を一口飲み、口内を潤わしてから、私は話し始めた。
「オトちゃんも落ち着いたし、ここで私に手伝えることはもうないと思うの。だから、私はクロを迎えに行こうと思う」
言葉の裏に隠した意味を察したのか、フェスとルークの視線が少し下がった。
そう、オトちゃんの出産にはいろいろな思惑が絡んでいた。
貞操観念が日本とは比べ物にならない位に高い世界でオトちゃんが遊べたのは、オトちゃんが持っていた魅了というスキルのせいだ。それにオトちゃん自身が、この世界では少し高いレベル三十四の魔術師であったというのもある。
更に肉体関係を持っていた四人の婿候補は、全て高位貴族。
公爵令息に宰相の息子や騎士団長の息子、大神官の息子までいたのだが、その全てが伯爵以上。しかも皆が皆、髪や瞳の色が違う。
オトちゃんは既に、宰相の息子であるピーター・グランキン侯爵令息と婚姻を済ませているけれど、産まれた子どもが別の令息達の特徴を受け継いでいれば、取り上げられてもおかしくなかった。
いくら無意識に魅了を使った結果の自業自得だとはいえ、さすがにそれは頂けない。
だからこそ、オトちゃんは自らが信頼できる人として、私に手伝いを頼んできたのだ。仮にも聖女である私の前で、オトちゃんやその子供に敵意をぶつける人なんていないだろうしね。
「……気がついていましたか」
正直、まさかという思いはあったけれど、あんな光景を見てしまえば嫌でも想像できた。
召喚されたとはいえ、聖女でもないオトちゃんの身分は平民のようなもの。いくら宰相が後継人かつ義父で、ピーターと婚姻して侯爵夫人になったとはいえ、出産の為に王城を貸すなんてあり得ない。
更には王族の医師まで付けた上に、大人数が待機するという、王族の出産並みなのではないかという光景があり、それは異様に思えた。
そう、オトちゃんの子供を利用してやろうという貴族達の私利私欲が透けて見えたのだ。
流石にでっちあげる人間や、自らが父親だと言い張る人間がいなかったのは、幸いといったところか。
そして――それをキッカケに、クロは私の元から離れていったのだ。
クロ。小さな三角耳と短い尻尾を持つ、長毛の黒いもふもふ。
魔王と呼ばれている存在だけれど、ただ食い意地が張っている可愛い性格をした物体だ。
私の何よりの癒し!
魔王とか関係なく、愛しい家族もふもふ!
「そりゃクロがあんな状態になれば、嫌でも理解できますよ」
あの無能国王がと、蔑んだ目をしながらシロも呟いた。
オトちゃんの出産。それは私も立ち会った。
医療がそこまで発展していないこの世界では、出産で命を落とす事も当たり前で、感染症の怖さからも、念の為にと陣痛の時から付き添っていたのだ。
……というか、ただの回復要因だったのだけれど。
私はあの時の事を、遠い目をしながら思い出した。
「いたた! 痛い! 痛い~~‼」
ベッドの上に横たわっているオトちゃんを向こうに向けて、腰や背中を擦り続ける。
「スワさんも子ども産めぇええ! いや、まずは相手か!」
「冷静だな⁉」
八つ当たりとも思えるオトちゃんの叫びに突っ込みつつ、溜息をついた。
出産した事のない私は、痛みに叫んでいるオトちゃんの腰を擦る位しか出来ないのだけれど……叫びの内容で地味に心が抉られる。他の叫びはないのか。
破水してから、そろそろ四時間経とうとしている。助産師の助手達がオトちゃんに水をあげたりしているが、こんなに時間がかかるものなのかと思いながら、私は部屋の中をチラリと見渡す。
中には十数人のメイド達が、まるで監視するかのようにオトちゃんを見ているし、扉の外にも数十人の執事や騎士達が待機している。
つけている家紋のようなものは、見事に婿候補だった者達の家のものばかりだ。
時間が経てば経つ程に、苦しそうな息遣いをするクロの声が聞こえる。確実に原因はあいつ等だろうと私は予測していた。
「早く結婚しろー!」
私の思考を蹴散らすように、オトちゃんは叫ぶ。
妊娠出産に怖気づきたくなる光景を見せつけて結婚を勧めるとは、これどんな嫌がらせ?
こっちは過剰にならない程度の光魔法を、必死にかけているというのに!
「はぁあああ……」
「スワさーーーん‼」
「オト⁉」
深く溜息をつくと、呼応するかのようにオトちゃんが私の名前を叫ぶ。そうすれば廊下で待っているだろうピーターが心配そうにオトちゃんの名前を呼ぶわけで……何この山びこ。
いっその事、ピーターの名前を叫んでくれ。そうすればきっと来てくれるよ、うん。
そして、この八つ当たりを変わってくれ。というか、早く産まれてくれ。
クロの方へチラリと視線を向けつつも、私は今すべき目の前の状況へと、すぐに意識を戻す。
「頑張ってください!」
助手が励ますように掛け声をかけてくる……けれど。
「頑張っとるわ‼」
「早く出てきてくれ‼」
イライラが爆発していた私達は、各々違う方向へと怒鳴り返していた。
そんな紆余曲折を経て、やっと部屋の中に赤ん坊の泣き声が木霊した。
「オギャァアア! オギャァアアアアア‼」
「う……産まれたのか!?」
元気な産声が届いたのか、部屋の外からピーターの叫び声が聞こえ、微かにトリプルトラブルメーカーやアキの声もした。ちなみに、トリプルトラブルメーカーとは婿候補でオトちゃんの側にいた、ルークとピーターを除いた三人の事だ。ある意味、個性的でトラブルしか起こさない……優秀と言われているが面倒でしかない為、そう呼んでいる。
そして同時に、大勢の声も沸き起こった。
「あ……赤ちゃん! 私の赤ちゃん!」
オトちゃんは大きな声をあげたけれど、すぐに安心したよう息を吐いたのが聞こえた。
「見てください! スワさん! 私にそっくりの…………ヒッ!?」
赤ん坊を見たオトちゃんは喜びに溢れた明るい声を出して、立ち上がった私を見た後、恐怖に引きつったような悲鳴をあげた。
何だろう? てか失礼じゃないか?
そんな事を思っているうちに、メイド達は入れ代わり立ち代わり赤ん坊を一目見ては、もう用事は済んだとばかりに、早々に出て行く。
そして入室許可を得ただろうピーターやアキ、トリプルトラブルメーカー達も赤ん坊を見に入って来て、口々にオトちゃんと似ていると言った。
確かに赤ん坊は黒目黒髪で、顔つきはオトちゃんにそっくりの可愛らしい女の子だ。
父親が誰かハッキリ分かる色なんて持っていない。もはや分離したと言っても良い程に、オトちゃんの特徴しか受け継いでいないのは、良い事だろう。
喜びの顔でこちらを向いたピーターだが、表情はすぐに強張る。それに続いて、アキやトリプルトラブルメーカーもこちらへ視線を向けた後に、息を飲む音が聞こえた。
「スワ様!?」
「お前……どうした!?」
フェスとルークも来ていたのか。
驚きと心配の声で呼びかけられたが、私は声を出す事すら叶わない。
「聖女様が……やつれている!?」
「さすがに大変だったのよ……」
オレグの焦り驚く声に、シロが遠い過去を思い出すかのように声を絞り出して返した。
流石に私も体力の限界。
出産に立ち会った事のない人間を立ち会わせるべきじゃない。そして何時間かかったのか分からないけれど、体感的には何日も拘束されていた気分だ。
焦るし心配になるし、怒鳴られるし。あと……は、オトちゃんの名誉もあって言わないけど。
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