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朝、目が覚めたらソレイユの父がもう家に居るとナーサに言われてエルシャールは飛び起きた。
ナーサは慌てなくてもいいと言ってくれたが、そんな言葉を真に受けられない。

(訪問するのは昼じゃなかったの?!)

事前に用意されていたドレスをナーサに手伝ってもらいながら身に着け、ネックレスや、ソレイユが贈ってくれたイヤリングを付けてもらいながらエルシャールは髪を櫛で梳きながら時間を確認するとまだ7時にもなっていなかった。

「旦那様はせっかちなのでお嬢様が気に病まないでとイザベラ様がおっしゃってました」

イザベラは日課の庭で作業をする為、朝5時には起床し今はアーサーの相手をしていると言われてエルシャールは余計に焦りを覚えた。

(姑と舅が揃っているのに婚約者のエルシャールが居ないなんて絶対に悪い印象しか持たれない!)

ナーサに慰められても落ちつかず、結局エルシャールは化粧も殆どしないままヒールを履いて急いで階段を下った。

「きゃっ!」
「落ちつけ」

階段を降りきって居間への方向に身体を向けた時、エルシャールは壁の様に立つソレイユに短い悲鳴を上げた。
丁度エルシャールを迎えに来ていたのだろう、彼はよろけたエルシャールの腰を掴んで小さくため息をついた。

「また怪我をしたいのか」
「だってお父様が……それに私、」
「父にはお前の状態も話してある。だから少し落ち着け」

歩きだそうとするエルシャールにソレイユは言い聞かせるようにしてエルシャールの乱れて一房垂れている髪を右耳に掛けた。
ソレイユの瞳の色に似た石が揺れて、エルシャールの髪に当たる。

「一番目下の人間が遅れてしまうなんて許されないでしょう?」

エルシャールの赤い目はソレイユをとらえると強く訴える。
その確信した物言いにソレイユはエルシャールが育てられた状況を正しく理解する。

「ウェンドリア家ではそんなルールは存在しない。だから落ちつけ、靴も左右色が違っているぞ」

言われてエルシャールは自分の足元を見て目を見開いた。
左と右とで色も高さも違うヒールを履いている事に今頃気が付いた。

(どうりで歩きにくいと思った……)

白と赤という全く別の色を履いている足元に目線を向け、それからエルシャールは外に面した窓に映る自分の姿に驚いた。

(髪もほどけているし、背中のリボンもほどけてるわ……)

愕然とするエルシャールの視線を追いかけて、ソレイユも窓を見る。
ガラス越しに目が合って、エルシャールは自分がとんでもない姿でソレイユの両親に会おうとしていた事を恥じた。
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