69 / 80
68
しおりを挟む
「良く似合う」
(笑った……?)
ふっと、空気が柔らかくなる気配がして、エルシャールが目を開けると至近距離でソレイユがエルシャールを見つめていた。
太陽を閉じ込めた青が細くなったにも関わらずエルシャールにはソレイユが輝いて見えた。
冷たい表情ばかり見せるソレイユがアルカイックスマイルでもなく口端を釣り上げて笑うだけでソレイユの印象は全然違う物になった。
(いつもそうやって笑っていたらいいのに……)
なぜ自分に対して笑うのかわからず先に目を逸らしたのはエルシャールだった。
エルシャールは自分を見て笑っているソレイユがなぜ機嫌がいいのか理由が思い当たらなかった。
自分にだけ素の姿を見せるソレイユは基本的にエルシャールをからかういじわるな人だった。
そんな彼がエルシャールを素直に褒めたばかりか、笑っている。
じっと目を逸らすことなく見つめながらエルシャールは物思いにふける。
(原作でよく見た表情にそっくり)
原作の中で、ソレイユが見せていたセージュに向ける気を抜いたような本当の笑顔。
本来なら自分に向けられることのなかったソレイユの笑顔に、エルシャールは胸のあたりがチクリと痛むのを知らないフリをした。
「そんな顔も出来るんですね……」
「何?」
「いつも人を馬鹿にしてばかりだったから……」
素直に喜びを表したくなくて、エルシャールは顔を逸らしながら呟くように感想を漏らすと、ソレイユはわかりやすく眉をひそめた。
エルシャールはそんな彼に臆することなく理由を告げる。
嫌われているとばかり思っているお陰か、彼が自分に暴力を振るわないとわかっているからか。
いつもなら絶対に言わない心情を言えばソレイユはエルシャールの頬に手をのばして告げた。
「貴方も無表情ばかりだろう」
「……!」
突然確信に触れられてエルシャールは言葉に詰まった。
頬を撫でられ、目が合った時、エルシャールはソレイユを心から遮断した。
貴族として何の苦痛も知らない人に、エルシャールが無表情でいる理由は理解されない。
そう1度でも思ってしまうとだめだった。
無表情でいるのは、エルシャールの防衛本能からくるもので、表情に出ていないからと言ってエルシャールが傷ついていないわけでも喜んでいないわけでもない。
ただ、今までの境遇がエルシャールを無表情になるまで追い込んだのだと説明出来るほどエルシャールはソレイユをまだ信用できていなかった。
(笑った……?)
ふっと、空気が柔らかくなる気配がして、エルシャールが目を開けると至近距離でソレイユがエルシャールを見つめていた。
太陽を閉じ込めた青が細くなったにも関わらずエルシャールにはソレイユが輝いて見えた。
冷たい表情ばかり見せるソレイユがアルカイックスマイルでもなく口端を釣り上げて笑うだけでソレイユの印象は全然違う物になった。
(いつもそうやって笑っていたらいいのに……)
なぜ自分に対して笑うのかわからず先に目を逸らしたのはエルシャールだった。
エルシャールは自分を見て笑っているソレイユがなぜ機嫌がいいのか理由が思い当たらなかった。
自分にだけ素の姿を見せるソレイユは基本的にエルシャールをからかういじわるな人だった。
そんな彼がエルシャールを素直に褒めたばかりか、笑っている。
じっと目を逸らすことなく見つめながらエルシャールは物思いにふける。
(原作でよく見た表情にそっくり)
原作の中で、ソレイユが見せていたセージュに向ける気を抜いたような本当の笑顔。
本来なら自分に向けられることのなかったソレイユの笑顔に、エルシャールは胸のあたりがチクリと痛むのを知らないフリをした。
「そんな顔も出来るんですね……」
「何?」
「いつも人を馬鹿にしてばかりだったから……」
素直に喜びを表したくなくて、エルシャールは顔を逸らしながら呟くように感想を漏らすと、ソレイユはわかりやすく眉をひそめた。
エルシャールはそんな彼に臆することなく理由を告げる。
嫌われているとばかり思っているお陰か、彼が自分に暴力を振るわないとわかっているからか。
いつもなら絶対に言わない心情を言えばソレイユはエルシャールの頬に手をのばして告げた。
「貴方も無表情ばかりだろう」
「……!」
突然確信に触れられてエルシャールは言葉に詰まった。
頬を撫でられ、目が合った時、エルシャールはソレイユを心から遮断した。
貴族として何の苦痛も知らない人に、エルシャールが無表情でいる理由は理解されない。
そう1度でも思ってしまうとだめだった。
無表情でいるのは、エルシャールの防衛本能からくるもので、表情に出ていないからと言ってエルシャールが傷ついていないわけでも喜んでいないわけでもない。
ただ、今までの境遇がエルシャールを無表情になるまで追い込んだのだと説明出来るほどエルシャールはソレイユをまだ信用できていなかった。
94
お気に入りに追加
688
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ゼラニウムの花束をあなたに
ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる