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「これはエルシャール様の髪にも良く映えますよ」
次々と差し出される装飾品をエルシャールはソレイユと並んで選んでいた。
なぜかエルシャールにばかり商品を見せてくる人ばかりでエルシャールはそのどれも選べないまま人は入れ替わってしまう。
ソレイユは何も言わないでエルシャールがじっと装飾品を見終わったくらいで合図をする以外エルシャールの好きにさせる。
(選んでくれたらいいのに……どうして何も言わないのかしら)
エルシャールの人生で欲しい物を選ぶという選択肢が与えられた事はなかった。
余った物を与えられる、もしくは何も与えられない。
だからだろう、エルシャールにとってキラキラと輝くいかにも高そうな物をみても欲が湧きおこらない。
綺麗な事も、それらがどうして大切に扱われているのかもわかるのに、エルシャールには自分の物になるという想像がつかなかった。
(私に着けられるより他の人の方がずっとこの子たちも幸せでしょうに)
ウェンドリア宅に置いてもらえるようになって髪が絡まる事も、服がみすぼらしい事もなくなったとはいえエルシャール自身は何も変わっていなかった。
数日で傷だらけの肌に変化が訪れるわけも、身体に肉がつくこともなくて、ナーサによって整えられた貴族令嬢らしさを取り払われてしまえば、みすぼらしいエルシャールに逆戻りであることは本人が一番良く分かっていた。
(見栄の為にはどれか選ばないといけないんでしょうけど……)
エルシャールは時間と共に焦り始めていた。
並べられたどれもが同じように見え、早く選ばないとソレイユは婚約者の好みも把握していないと噂を流されるのではないかと考えてしまえば下手に選ぶことも出来ない。
(どうしよう、どれを選んでもいいと言われても選べない)
ソレイユの指先で次の商人が呼ばれると、エルシャールは彼が広げて見せたイヤリングに目を奪われた。
――小指の先ほどの大きさの青い石
エルシャールが自分の瞳の色そっくりのイヤリングに気を取られていると、今まで見ているだけだったソレイユが口を開いた。
「これを頂こう。あとはそうですね……先程見せて頂いた物をもう一度見せて頂けますか?」
「流石ソレイユ様、お目が高くていらっしゃる!」
商人の男はソレイユがイヤリングを買うと言ったとたん喜色を浮かべた。
(私が興味を示したのを見ていたの?)
エルシャールは呆気に取られていた。
エルシャールが反応を示したのはほんのわずかな時間だったというのに、ソレイユは見逃さなかったらしい。
(この人の人を観察する力は本物ね……)
次々と差し出される装飾品をエルシャールはソレイユと並んで選んでいた。
なぜかエルシャールにばかり商品を見せてくる人ばかりでエルシャールはそのどれも選べないまま人は入れ替わってしまう。
ソレイユは何も言わないでエルシャールがじっと装飾品を見終わったくらいで合図をする以外エルシャールの好きにさせる。
(選んでくれたらいいのに……どうして何も言わないのかしら)
エルシャールの人生で欲しい物を選ぶという選択肢が与えられた事はなかった。
余った物を与えられる、もしくは何も与えられない。
だからだろう、エルシャールにとってキラキラと輝くいかにも高そうな物をみても欲が湧きおこらない。
綺麗な事も、それらがどうして大切に扱われているのかもわかるのに、エルシャールには自分の物になるという想像がつかなかった。
(私に着けられるより他の人の方がずっとこの子たちも幸せでしょうに)
ウェンドリア宅に置いてもらえるようになって髪が絡まる事も、服がみすぼらしい事もなくなったとはいえエルシャール自身は何も変わっていなかった。
数日で傷だらけの肌に変化が訪れるわけも、身体に肉がつくこともなくて、ナーサによって整えられた貴族令嬢らしさを取り払われてしまえば、みすぼらしいエルシャールに逆戻りであることは本人が一番良く分かっていた。
(見栄の為にはどれか選ばないといけないんでしょうけど……)
エルシャールは時間と共に焦り始めていた。
並べられたどれもが同じように見え、早く選ばないとソレイユは婚約者の好みも把握していないと噂を流されるのではないかと考えてしまえば下手に選ぶことも出来ない。
(どうしよう、どれを選んでもいいと言われても選べない)
ソレイユの指先で次の商人が呼ばれると、エルシャールは彼が広げて見せたイヤリングに目を奪われた。
――小指の先ほどの大きさの青い石
エルシャールが自分の瞳の色そっくりのイヤリングに気を取られていると、今まで見ているだけだったソレイユが口を開いた。
「これを頂こう。あとはそうですね……先程見せて頂いた物をもう一度見せて頂けますか?」
「流石ソレイユ様、お目が高くていらっしゃる!」
商人の男はソレイユがイヤリングを買うと言ったとたん喜色を浮かべた。
(私が興味を示したのを見ていたの?)
エルシャールは呆気に取られていた。
エルシャールが反応を示したのはほんのわずかな時間だったというのに、ソレイユは見逃さなかったらしい。
(この人の人を観察する力は本物ね……)
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