よくある令嬢転生だと思ったら

甘糖むい

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「このエリアの支給人を呼んでください」
「……はい、私バリーズです」
「私に配給した覚えは?」
「……ありません」

エルシャールが呼び寄せた年若い支給人はおどおどとしながらも、ハッキリと答えた。
その答えを聞いてエルシャールは更に質問を重ねた。

「白ワインを誰に配ったか覚えている?」
「はい、白ワインは4本のグラスでしたから……ラグラス夫人、マリアンナ様とそのご友人、サンドラ様です」
「赤ワインを配ったのも貴方?」
「はい、赤ワインはサンドラ様のご要望で4本お持ちしました」

バリーズが答えると、聞き耳を立てていた野次馬は囁き合った。

「白と赤、どちらもサンドラ嬢が受け取ったのか?」
「エルシャール嬢は何も受け取っていないなら誰がサンドラ嬢のドレスにワインをかけたというの?」

囁きが大きくなると、エルシャールへの非難の視線はサンドラに疑惑を向け始めた。
サンドラは自分に疑いが向いた事に気が付くと悲壮な表情を浮かべて叫んだ。

「嘘よ!バリーズとお姉様は共謀して私をはめようとしてるの!お姉様が私にワインをかけたのは間違いないのよ!!」
「……っ!そうですわ!私達が証人です!」
「サンドラ様が可愛らしくて嫉妬しているからといって酷い言いがかりですわ!」
「支給人とまで寝てエルシャール様はサンドラ様に辛く当たっているのよ!」

サンドラが話しながら濡れたワインの跡を見せびらかすようにして訴えかけた。
そのサンドラに続いて取り巻き達も口々にエルシャールを非難する。

「はぁ……」

騒がしいサンドラ達に聞こえない程度にエルシャールは溜息をついた。
口で言っても多勢に無勢。
エルシャールの言葉はサンドラ達の騒がしさでかき消されて罪をでっちあげられることはわかりきっていた。
それならと、エルシャールは辺りを見渡した。

「すみません、そのグラスお借り出来ますか?」
「え?ああ、どうぞ」

エルシャールはサンドラ達の言葉を無視して、野次馬に徹する一人の夫婦から赤ワインの入ったグラスを受け取った。

「今から……私がやったかどうか、皆さんに証明してみせます」
「はぁ?!ばっかじゃないの、証明なんてどうやって……」
「そうよ!!サンドラ様に早く謝りなさい!」

エルシャールが宣言すると、逆上したのはサンドラの取り巻き、ジェシカとディーズだった、
彼女はエルシャールに向かってわかりやすく馬鹿にした態度を取ると、一歩エルシャールに近づいた。

(好都合ね……)

エルシャールは進み出てきたジェシカ達が薄い色のドレスを着ている事に目をつけると、何のためらいもなく彼女達に向かってグラスを傾けた。
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