よくある令嬢転生だと思ったら

甘糖むい

文字の大きさ
上 下
48 / 80

47

しおりを挟む
「皆さま、お集り頂きありがとうございます!本日は楽しい夜を過ごしてください」

ヘイラー子爵が辺りを見渡してグラスを掲げると、その場は一気に最高潮に盛り上がりを見せた。
そうして始まったパーティーをエルシャールは柱の影から見守っていた。

(動くなと言われた手前ここ居いたら良いのよね……?)

参加者が相手をみつけてダンスを踊ろうとしている中、エルシャールは息をひそめていた。
真意がわからないにせよ、ソレイユに何も口にするなと言われている手前グラスを取るのも憚られてソレイユの帰りを待って座っている時、エルシャールは突然頭から液体をかけられた。

「誰かと思えば、お姉様じゃない」
「……サンドラ」

取り巻きの女の子を数人連れて白ワイン濡れのエルシャールを嘲笑う妹がそこに居た。

「……あら?呼び捨てを許可した覚えはなくってよ」
「この方が、サンドラ様のお姉様なんて信じられませんわ」
「濡れるとより一層無様でよくお似合いですわね」

サンドラが一言いえば、取り巻き達は口々にエルシャールを貶める発言をエルシャールだけに聞こえるような大きさで囁き笑い合った。
陰湿で、手慣れた様子にエルシャールはサンドラ達を静かに見つめた。

「何よ、生意気な顔をして!ソレイユ様の婚約者になったからって……」

苦々しくはき捨てて、サンドラは言葉の途中で何かに気が付いた顔をした。
その顔が嫌な風に歪みエルシャールの背中を悪寒が走る。
早くその場から離れないと。
エルシャールがそう思って立ち上がると動き出す前にサンドラは左手に持っていたワイングラスをわざと自分のドレスにこぼして大声で叫んだ。
先程とは違う赤ワインが飛んで、近くにいたエルシャールのイザベラから借りたドレスに色を付けた。
エルシャールは茫然とするしかなかった。

(イザベラ様のドレスが……)

「ごめんなさい、お姉様!!」
「まあ、サンドラ様大丈夫ですか?!」

グラスと共にその場に倒れ込んだサンドラは、立ったまま茫然とするエルシャールを潤んだ瞳で見つめる。
彼女が中心の劇が始まった。と気が付いたのはダンスを始めようとしていた人達が皆、エルシャール達を見て訝しんでいたからだ。
立ったまま何もいわないエルシャールを置いて劇は進行する。

「私が、躓いて白ワインをお姉さまにかけてしまった事は謝ります!ですが、私に赤ワインをかけるほどの事だったでしょうか?!」
「エルシャール様、どうかサンドラ様を許して差し上げてください!!」

エルシャールは圧倒的に不利だった。
涙を零してサンドラが謝罪をしている時点で負けたも同然だった。
周りの目は泣きじゃくるサンドラに同情心を抱き、何もいわずに突っ立っているエルシャールを非難する声まで聞こえはじめていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

処理中です...