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「何処に向っていらっしゃるんですか?」

行き先も告げられずに馬車が動き出してから無言の空間に耐え切れず、エルシャールはソレイユに囁くように尋ねた。
何かをしろと言われた訳ではないものの、意味があってエルシャールを連れて行くのだから詳しくは話さないにしても概要くらいは聞いておきたかった。

「ヘイラー家です」
「え?」

ソレイユからヘイラー家と聞いてエルシャールは驚いた声をだした。

「どうした?まさかエルシャール嬢は今日何があるのか知らされずにつれてこられたのか?」

エルシャールの声に、ジェニエルもまた驚いた顔をして、ソレイユとエルシャールの顔を交互にみた。
ソレイユが答えていないのに答えられず、エルシャールが黙って俯く。
すると、ジェニエルは言葉を続けた。

「今日はダンスパーティーがある。君が呼ばれたのはそのためだ」
「ダンスパーティー……」

ダンスと聞いてエルシャールは自分の右足を不安そうに見つめた。
痛みは動かしても殆どないとはいえ、踊れるほど回復している訳でもない。
それに、ヘイラー家と聞いてエルシャールは頭に一人の令嬢が思い浮かんだ。

(ヘイラー家ってセージュが引き取られた家名よね……?)

エルシャールが紘子の時に読んだ『私だけが知っている物語』で、セージュがソレイユに助け出され、ジェニエルの計らいで身を寄せる事になった子爵家がヘイラーだと記憶していた。

(最後まで殆ど出番はなかったけど、セージュとは良好な関係を築いていて本当の親子みたいなやり取りがあったのよね)

最後までセージュの味方だったヘイラー家は彼女を大切に守り、ジェニエルへの忠誠を見せつけた。
そして、最後はジェニエルの計らいで伯爵家に出世したヘイラー家。
思わぬところでヘイラー家に行く事になって、エルシャールは動揺を隠せなかった。
そんなエルシャールの態度に、ジェニエルとソレイユは意味ありげに目配せをしあうが考え込んでいたエルシャールは気が付かなかった。

(けど、どうして私がヘイラー家に行くんだろう?)

「私は何のために連れていかれるのでしょうか?」
「何だと思う?」

長く考えていたエルシャールは意を決して尋ねると、間髪入れずにジェニエルに聞き返された。
その顔は、エルシャールがどんな返事をするのか待っているようでヒントすら与えてくれないようだった。

(きっといままでのやり取りにヒントがある……ということよね)
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