よくある令嬢転生だと思ったら

甘糖むい

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「……ご無礼をお許し下さい、ジェニエル殿下」
「なにをしているんですか……」
「っふふ、アハハ!……いい、突然来たこちらが悪い」

(……え?)

「いやぁ、どんな令嬢かと思えば突然床にひれ伏すとは、思いもしなかった」
怒声を覚悟していたエルシャールは、しばらくの沈黙の後に降ってきた大きな笑い声と共に降ってきた許可に顔を上げた。

「無様な恰好をいつまで晒しているつもりだ」

エルシャールにだけ聞こえるような音量のソレイユの声が聞こえた。
聞き間違いかと顔を上げると、ソレイユはもうエルシャールの方を見ておらず、けれど強い力でエルシャールは引き上げられるようにして立ち上がらせられた。

「殿下……貴方のお遊びで私の婚約者を翻弄しないでいただきたい」
ソレイユはエルシャールの腰に手を回して強い眼光でジェニエルを睨みつける。
呆気に取られて見ているだけだったエルシャールはソレイユの横顔に目が釘付けになり、動けないでいた。

(一体どういうこと……?)

ソレイユがエルシャールを庇い、守る様に身体を支えてくる姿にエルシャールは困惑していた。
同じように馬鹿にされることはあったとしても、ジェニエルとエルシャールの間に入って来るとは思っていなかったのはジェニエルも同じだったらしい。

「やっぱり気に入ってるじゃないか」

ニヤニヤと嫌な笑顔を張り付けてジェニエルは生えてもいない顎を指先でさすっている。
全身で揶揄っている。
誰が見てもわかるそんなジェニエルの様子に、ソレイユは表情の見えない笑顔を浮かべた。

「セージュに言いつけましょうか?」

(セージュ?!)

思っても見なかった所で突然現れたヒロインの名前に、エルシャールは肩を大げさなほど跳ね上げてジェニエルを見た。

(原作が始まるのは4年前なのに、もうソレイユ達はセージュに会っているというの?)

「なっ!……この事はセージュには言わないでくれ!俺が悪かったソレイユ!」
先程までの老成したような態度から一転して、ジェニエルは分かりやすく泡を食った態度でソレイユに懇願し始める。

「……」
「わかった!これから全ての書類を片付けるし、お前の言う条例を通す!だから……」
「行きましょう、エルシャール」

ソレイユはジェニエルにブリザードが吹き荒れる笑顔で答えるとエルシャールをエスコートしながら外に出た。
纏わりつくようにしてソレイユにおべっかを言っていたジェニエルも、一目がある場所に出ればキラキラと効果音が付きそうな笑顔を浮かべて馬車に乗り込む。

「殿下とご一緒するんです……するの?」
「その予定はなかったがそのようだ」

そう言ってエルシャールはジェニエルの向かいに座るよう言われ、腰を下ろすと直ぐにソレイユが隣に座り、何かを言う前に馬車は動き始めた。
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